【主張】原発避難訴訟 予見判断の混乱危惧する

 東日本大震災に伴う福島第1原発事故の影響で福島県から群馬県などに避難した住民らが、国と東京電力に損害賠償を求めた訴訟で、前橋地裁は「原発事故の予見や回避は可能だった」として両者に賠償を命じた。

 福島第1原発事故をめぐり国や東電の過失が裁判で認められたのは、これが初めてとされる。

 刑事訴訟では東電の旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪で起訴され、東京地検は2度にわたり「事故の予見や回避は困難だった」と不起訴処分とし、検察審査会によって強制起訴された。

 検察当局が認めなかった予見や回避の可能性を、裁判所が認定したことになる。この「ねじれ判断」は、混乱を招かないか。

 全国に避難した住民らによる約30件の同種の集団訴訟で、これが最初の判決となる。今後は各地裁が個別に判断を下す。

 前橋地裁の判断が同種の訴訟や刑事裁判にどのように影響するかは未知数である。それぞれ異なった判断が出れば、混乱はさらに深まるだろう。

 判決は、平成14年7月に国の地震調査研究推進本部が策定した長期評価で「三陸沖北部から房総沖の日本海溝でマグニチュード(M)8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」と推定したことなどを根拠に、巨大津波を予見することが可能だったとした。

 国と東電は「長期評価は実証性を欠く仮説で、政府の中央防災会議でも採用していない」などと反論していたが、退けられた。

 原発事故により避難生活を余儀なくされた人々の苦難は、想像に余りある。避難先での原発いじめの頻発も明らかになった。深刻な事故を、なんとしても防いでほしかったのはもちろんだ。

 一方で、「3・11」が想定を大きく上回る巨大地震であったことも事実である。判決は、東日本大震災をこう表現した。「複数の震源域がそれぞれ連動して発生したM9・0の我が国で観測された最大の規模の地震である。本件地震に伴い発生した津波は、世界観測史上4番目、日本観測史上最大規模のものであった」

 未曽有の自然災害に対抗するには、政府や企業、国民が団結するしかない。裁判所の判断のねじれや揺らぎが分断に結びつくことを、何よりも危惧する。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ