【主張】テロ等準備罪成立 国民を守るための運用を 海外との連携強化に生かせ

 国民の生命や財産をテロや暴力団犯罪から守るため、共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が成立した。7月11日にも施行される見通しである。

 野党は強く反発したが、新法の成立をまず評価したい。国連が採択した国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の批准条件を満たし、これでようやく日本も締結することができる。

 「共謀罪」は過去に3度、廃案に追い込まれた。すでに187カ国・地域が条約を締結し、先進7カ国では日本だけが取り残される状況となっていた。

 ≪通信傍受なども検討を≫

 2020年には東京五輪・パラリンピックを控えている。日本がいつまでも、テロや組織犯罪に対峙(たいじ)する国際社会の弱い環(わ)でいるわけにはいかない。一刻も早い新法の成立が望まれたゆえんである。テロリストは、国会の都合を待ってはくれない。

 今後は一日も早くTOC条約に加盟し、テロや国際犯罪に関する情報を国際社会と共有したい。また条約の締結によりこれまで日本が「捜査共助」や「犯罪人引き渡し条約」を締結していない各国とも、TOC条約による捜査協力を求めることが可能となる。

 ただ、法律が成立しただけでは、テロなどの組織犯罪を防ぐことはできない。社会の安全を守るうえで、新法をどう厳正、効果的に運用することができるかが課題となる。

 例えば、国会審議の過程で、通信傍受はテロ等準備罪の適用外とされた。だが、テロ集団や暴力団犯罪を摘発するには通信傍受や司法取引などの捜査手段が有効とされる。新法を真に国民を守るためのものとするため、不断の検討が欠かせない。

 新法は参院法務委員会での採決を省略し、「中間報告」の手続きを取って本会議で可決された。民進党や共産党は「異常な禁じ手を使った暴挙だ」などと批判する。では、反対する野党は真摯(しんし)な議論を尽くしたのか。

 「絶対廃案」を前提に掲げる姿勢では、建設的な議論は成り立たない。不毛な論戦が目立ったのは残念である。

 代表的な反対論に「内心の自由を侵す」というものがあった。人が何を考えようと勝手だが、実行行為を伴えば処罰対象となるのは他の犯罪も同様である。

 殺人罪の構成要件は、殺害行為と殺意である。殺意は「内心」に含まれるが、殺害行為を伴えば、そこに自由はない。対テロ準備罪の構成要件も、犯罪の合意だけではなく、具体的な準備行為がなければならない。

 「平成の治安維持法」などの批判は、安全保障関連法案を「戦争法案」と呼んだのと同様の、劣悪なレッテル貼りである。戦前と現在とでは体制も社会情勢も大きく異なり、本来、比較の対象とはなり得ない。

 ≪凶行許さぬ決意とせよ≫

 日本の刑事法は犯罪の実行を処罰対象とする原則があり、準備罪はこれに反するとの反対もあった。だが、現行法でも殺人罪などには予備罪が設けられている。

 無差別大量殺人を企図するテロ計画を察知しても、犯行後しか処罰対象にできないなら、そんな原則は見直すべきだ。

 この法律は、そこを問うものでもある。多くの人命を失った後では遅い。

 共謀罪やテロ準備罪を持つ英国やフランスでも、悲惨なテロ事件が頻発している。「だから新法は役に立たない」という反対派の論法もあった。だが英仏には同法による未然の摘発に実績がある。

 それでもテロを完全に封じることはできない。現実はより厳しく受け止めるべき状況にある。法的な丸腰状態を、テロリストが見逃してくれるわけがない。

 最終的な採決に向けた混乱の責任は、政府与党にもあった。

 金田勝年法相は明らかに答弁能力を欠いた。成立を目指すあまり、「共謀罪」を否定する物言いに起因したのか。必要と信じる法なら堂々と通すべきだった。

 処罰対象の選別と法定刑の設定は、いわば国の意志である。

 テロなどの凶行は許さない。テロ等準備罪の新設には、そうした日本の決意を内外に示す意味がある。これは、テロとの戦いのスタートにすぎないことも、改めて認識すべきである。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ