【産経抄】「ホリブリス」な事件はたくさんだ 6月16日

 ロンドン橋の近くにあったパン屋のかまどから上がった火の手は、またたく間に周囲に広がった。4日間続いた火災は、現在は金融街として知られるシティー地域のほとんどを焼き尽くした。いわゆるロンドン大火が起こった1666年は、英国史における「アナス・ミラビリス」だった、との言い方がされる。

 ▼ラテン語で「驚異の年」という意味である。人々は前年から続くペストの猛威にも、さらされていた。もっとも、悪いことばかりではない。オランダとの海戦は、世界帝国への足がかりとなる。ニュートンが万有引力の法則を発見した年ともいわれる。

 ▼14日未明にロンドン西部で起きた、27階建て高層アパートの火災の映像は、世界に衝撃を与えた。懸命の消火活動をあざ笑うかのように、ビルは炎を噴き上げ、黒煙をまき散らす。取り残された住民が必死に助けを求める姿も、とらえられていた。

 ▼築43年の建物には、スプリンクラーが設置されていなかった。火災発生時の避難方法について、何の案内もなかったらしい。近年の大規模な改修工事で、コストを下げるために燃えやすい外壁材が使われた可能性さえある。世界を代表する都市に建つ高層住宅として、火災への備えがあまりにもお粗末だった。

 ▼エリザベス女王は1992年末のスピーチで1年を回顧して、「アナス・ホリビリス」(ぞっとするような、ひどい年)と表現した。もちろん「アナス・ミラビリス」をもじったジョークである。この年は、ウィンザー城が火災に見舞われ、王室内ではスキャンダルが相次いだ。

 ▼今年に入って英国では、凄惨(せいさん)なテロ事件が3回も発生している。「ホリビリス」な事件はもうたくさんだ。英国民の悲痛な声が、聞こえてくるようだ。

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