【産経抄】加計学園問題より国家的油断 7月11日

 城山三郎さんの小説『官僚たちの夏』は、主人公の風越信吾が悠然と旧通産省の大臣室を出ていく場面から始まる。「おれたちは、国家に雇われている。大臣に雇われているわけじゃないんだ」。固い信念で、高度成長下の通産行政を推し進めていく。

 ▼モデルとなったのは、元事務次官の故・佐橋滋(さはししげる)さんである。「スジの通らんことは断じて許さない。どっちが正しいかマスコミを通じて国民に訴えるくらいに開き直れ。自信を持て」。佐橋さんは小紙のインタビューで、後輩の官僚にこんなエールを送っていた。

 ▼いくつかの新聞コラムは最近、文部科学省前次官の前川喜平氏を佐橋さんになぞらえている。前川氏が「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画をめぐって首相官邸批判を始めたのは、役所を退いてからである。官僚としてスジを通したといえるだろうか。

 ▼「万死に値する責任がある」。天下りの斡旋(あっせん)問題で今年2月に次官を辞任した際は、重い謝罪の言葉を口にしていた。その舌の根の乾かぬうちに、「私、座右の銘が『面従腹背』なんです」などと言い出す。左遷人事を恐れず、政治家や上司に直言を続けた佐橋さんが知ったら、「冗談じゃない」と怒り出すだろう。

 ▼昨日、衆参両院で閉会中審査が行われ、野党側の参考人として前川氏が出席していた。改めて発言を聞いても、大騒ぎするほどの問題とは思えない。それより同じ日の正論欄の内容が気にかかる。精神科医の和田秀樹氏は、「国家的油断」が学力低下を招く、と指摘していた。

 ▼日本の科学研究費は中国の半分にすぎず、子供の勉強時間も中国や韓国に比べてはるかに少ない。長年文部科学行政を担ってきた前川氏は果たして、深刻な危機を認識しているのだろうか。

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