【産経抄】「沈黙の春」がヒアリの拡大を許した 7月12日

 クラムチャウダーという料理がある。貝のむき身にジャガイモやタマネギなどの野菜を加えて作る。発祥の地である米国の東海岸では、現地でよく採れるホンビノス貝が使われる。

 ▼ハマグリを大きくしたような貝が平成12年ごろから、東京湾でも見られるようになった。外国貨物船のバランスを取るために注入されるバラスト水に紛れ込んで運ばれてきたらしい。今では、江戸前の新顔として定着している。

 ▼こんな外来生物なら大歓迎だが、そうは問屋が卸さない。17年に施行された「外来生物法」で指定された、日本の生態系を乱す生物との戦いは終わりが見えない。22年前に大阪府で発見されて大騒ぎとなったセアカゴケグモは、今も生息域を広げている。

 ▼国内各地で発見の報告が相次いでいるヒアリは、この毒グモと比べても攻撃性と毒性ともに高いというから、恐ろしい。アルゼンチン原産の凶暴なアリは、1930年代に貨物船の積み荷に潜んで、米国南部に侵入した。被害を大きくしたのは、環境汚染の告発者として知られる米国の生物学者、レイチェル・カーソンとの指摘もある。62年に発表した『沈黙の春』で、ヒアリの被害を否定し、農薬の危険性を強調していた(『アリの社会』東海大学出版部)。

 ▼その後もオーストラリアや中国、台湾へと「密航」を続け、ついに日本にたどり着いたというわけだ。まさにグローバル時代を体現している生き物である。米国ではヒアリに刺されて年間約100人が死亡し、5千億円もの経済損失が出ている。

 ▼専門家によれば、ヒアリが巣を作って数年後、羽を持った女王アリが飛び立ってしまえば、駆除が難しくなる。テロとの戦いと同じように、水際作戦を成功させるしかない。

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