【産経抄】人間だけが持っている毒 7月14日

 世の中には風変わりなコンテストがあるものだ。10年ほど前、米カリフォルニア州サクラメントで行われた「水のガブ飲み大会」も、その一つである。参加した28歳の3児の母親は、240ミリリットル入りのボトルを何本も飲み干して、帰宅後自宅で亡くなった。郡検死官は、死因を「水中毒」と断定する。水分を過剰に摂取すると、血中のナトリウムが薄まる。発作を引き起こし、死に至ることがあるという。

 ▼千葉県印西市の老人ホームで、睡眠導入剤を混ぜたお茶を同僚に飲ませていた准看護師の女(71)が、殺人未遂容疑で逮捕された。お茶を飲んだ女性職員とその夫は、車で帰宅途中に交通事故を起こし、女性は肋骨(ろっこつ)を折る重傷を負った。今年2月には、60歳の女性職員が交通事故で死亡している。他にも体調不良を訴える職員が相次いでいた。

 ▼盛岡市の認可外保育施設では、1歳の女児が塩化ナトリウム中毒で死亡する事件があった。女児に大量の塩水を飲ませていた、施設の元経営者の女(33)が、傷害致死容疑で逮捕されている。

 ▼「すべての物質は毒である」。16世紀のスイス人医師、パラケルススの言葉である。確かに、人の生存に欠かせない水や塩、適正に服用すれば何の問題もない薬品でも、量と処方次第で猛毒となり得る。何より2つの事件で不気味でならないのは、犯行の動機がさっぱりわからない点である。

 ▼宮部みゆきさんに『名もなき毒』(文春文庫)という作品がある。青酸カリや睡眠薬、土壌汚染を引き起こす有害物質など、さまざまな毒が登場する。なかでも恐ろしいのが、「人間だけが持っている毒」だった。

 ▼心の毒は、不条理に他人の命を奪い、自らをむしばんでいく。残念ながら、解毒の方法は見つかっていない。

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