【主張】「電通」正式裁判に 経営者への厳しい警告だ

 電通新入社員が過労自殺した違法残業事件が、正式な裁判で審理されることになった。労働基準法違反で電通を略式起訴した検察について、東京簡裁が「不相当」と判断したためだ。

 書面審査で罰金刑を科す略式命令ではなく、公開の法廷に同社幹部らが出廷して審理が行われる意味は大きい。

 電通は過去にも若手社員の過労自殺を引き起こしている。その後、当局から何度も是正勧告を受けながら、過重労働を改めることはなかった。

 裁判は、同社の違法体質を解明し、その問題点や責任を明らかにする場となってほしい。

 政府はこの事件を契機に長時間労働の是正に向け、残業時間に明確な上限を設ける法改正を決めた。産業界は過重労働の一掃など労働環境の改善に努めなければ法的責任を問われ、厳しい社会的な批判を浴びることになる。

 電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が平成27年に過労自殺したのを受け、東京労働局は東京本社などを家宅捜索する強制捜査に入った。

 本社だけで約6千人の社員の1年半にわたる勤務実態を調べるなど、捜査は空前の規模に及んだという。

 だが、東京地検は同社を略式起訴にした。高橋さんら社員4人に対し、労使で定めた上限を超える月19時間超の残業をさせたという内容だ。高橋さんの当時の上司らについては、個人として処罰を求めるまでの悪質性は確認できないとして、起訴猶予となった。

 これまで、長時間残業などの労基法違反事件は、略式起訴がほとんどだ。それだけに簡裁の判断は異例といえる。過重労働に対する社会の厳しい目を、裁判所として考慮したものとみられる。

 今後の公判では、検察側の証拠開示や社長に対する被告人質問なども行われる。同社が社内に広がる違法残業を放置した、ずさんな労務管理の実態など、事件の全容解明につなげる必要がある。それが再発防止にも役立つだろう。

 産業界にはいまだに長時間労働の慣行が根強く残る。今回の事件は大手企業の事務職の働き方に当局のメスが入り、違法労働は許さないとの姿勢が示された。そして裁判所は厳格な審理を求めた。

 企業経営者はこれを厳しい警告と受け止めねばならない。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ