【産経抄】9月10日

 世の中の電源が一斉に落ちたらどうなるか。「スマホでググる」ができないのは諦めがつくとして、電話自体がつながらない。電子マネーが使えない不便には目をつむるとして、現金を引き出すATMが動かない。

 ▼情報通信網や先端機器に覆われた社会は作りが繊細である。厄介なのは暗転が音もなく訪れることだろう。〈「停電が起きた瞬間」とは、「何も起きなくなった瞬間」なんだ〉。今年2月に映画化された小説『サバイバルファミリー』(矢口史靖(しのぶ)著)の一節にある。

 ▼当節は、停電だけに備えればいいという時勢でもない。通信機器の誤作動などを生む太陽フレアに加え、無法者がもたらす脅威も低く見積もるわけにはいかなくなった。9日に建国記念日を迎えた北朝鮮が、しきりに喧伝(けんでん)する「電磁パルス(EMP)攻撃」である。

 ▼上空で核爆発を起こし、強力な電波の一撃で地上の電子機器を麻痺(まひ)させる。いわば「電源が落ちた」世界はコンピューター登場以前に戻り、復旧に数年かかるという。その戦力を北が得たかどうか冷静に見極める必要があるとして、インフラ網の防御は急務だろう。

 ▼昨年秋は首都圏で、この夏は大阪で起こった大規模停電が記憶に新しい。ミサイルという甚だ危険で迷惑な挑発も、われわれが踏みしめる地盤の危うさを直視するにはいい機会であろう。要は、国際社会の連携と圧力で押さえ込み、北に何も撃たせないことである。

 ▼きょう書いた原稿が翌朝には活字になってお茶の間に届く。当方は紙媒体というアナログの業界に携わる身だが、便利なサービスが繊細な社会基盤の上に成り立っていることには変わりない。電源が落ち、世の中が暗転しては困る。ガリ版刷りの壁新聞も味わいは悪くないのだが。

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