【産経抄】劇場選挙なんて、演劇に失礼である 10月11日

 さぞかし無念であろう。東京・新橋演舞場で公演中、左腕を骨折する重傷を負った、歌舞伎俳優、市川猿之助さんの心中を察する。主演と演出を兼ねる「スーパー歌舞伎II(セカンド) ワンピース」は、初日を迎えたばかりだった。2年前の初演は、奇想天外な演出が大反響を呼んだ。今回はさらに工夫を重ねた自信作である。

 ▼ただし、若手の尾上右近さんを代役にたてて公演は続く。右近さんは、通常公演とは別の若手中心の舞台で、すでに主役を経験している。猿之助さんの「危機管理」にも驚いた。

 ▼今回の衆院選は、「劇場型選挙」「小池劇場」などと呼ばれてきた。確かに安倍晋三首相が衆院を解散して以来、小池百合子東京都知事の奇抜な演出に、観客席は大いに沸いた。もっとも、小池氏が党首を務める「希望の党」は、選挙後誰を首相に指名するのか、明らかにしないまま昨日、公示の日を迎えた。正式に幕が上がったというのに、舞台の上に肝心の主役が見当たらない。有権者は戸惑うばかりである。

 ▼「劇場型」という表現自体に憤りを感じる。劇作家の平田オリザさんが朝日新聞で語っていた。政治家がしているのは、目先の視聴率を競う「テレビ型政治」にすぎない、というのだ。小紙の「話の肖像画」に登場中のコメディアン、小松政夫さんにも聞いてみたい。

 ▼70歳を超えてからも、舞台で活躍中である。自動車セールスマン時代、植木等さんの「付き人兼運転手募集」の新聞記事を見たのが、人生の転機となった。「やる気があるなら、めんどうみるョ~~」。

 ▼4年後、植木さんは小松さんにないしょで、独立のお膳立てをしてくれた。記事の言葉に偽りはなかった。耳に心地よく響く各党の公約は、果たして信用できるのか。

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