【主張】TPP11大筋合意 保護主義を阻む礎とせよ

 ■米政権に粘り強く復帰促せ

 米国の離脱により、一時は崩壊の危機にひんした環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が再始動する。参加11カ国の閣僚が米国抜きの新協定を発効させることで大筋合意を果たした。

 土壇場でカナダが異論を唱えたため、首脳会合での合意宣言が見送られたのは残念である。閣僚会合で得た成果を確実に実現させることにより、11カ国の結束の強さを示さなければなるまい。

 TPPは、自由貿易や市場経済に基盤を置く国々が、アジア太平洋地域の経済秩序として構築した自由で公正な枠組みである。中国の台頭をにらめば、域内の経済的な結びつきを強める巨大協定を日本主導で進める意義は大きい。

 ≪カナダの異論は残念だ≫

 同時に、産業の保護を理由にTPPを否定し、露骨な自国第一主義を掲げるトランプ米政権の通商戦略に対応するためにも、この合意は重要な礎となろう。

 日本はTPPを成長戦略の柱としてきた。米国の離脱で規模こそ縮小したものの、海外経済の活力を取り込む恩恵があることに変わりはない。日欧経済連携協定(EPA)などと併せて、これを成長への起爆剤としたい。

 日本は交渉を牽引(けんいん)する役割を担った。TPP11に慎重だったベトナムなどに働きかけて合意を促した。国際交渉の場で、経済大国にふさわしい責務を果たせたのは特筆すべきことと評価したい。

 TPPは高水準の関税撤廃にとどまらず、知的財産や電子商取引などのルールを定めた質の高い協定である。新協定で中身を大きく変えるわけにはいかない。

 将来的な米国復帰に備えるためにも、20項目の凍結にとどめたのは適切である。

 問題は、この合意をいかに発展させていくかだろう。11カ国にとっての関心事が、米国の動きにあるのは言うまでもない。

 先の日米首脳会談では、多国間の枠組みを重視する安倍晋三首相と、2国間の方が米国の要求を相手国にのませやすいと考えるトランプ大統領との認識の違いが鮮明に表れた。トランプ氏はベトナムでの演説でも、自らを縛るような多国間の枠組みには入らないと言明した。現状では、早期復帰を期待するのは非現実的である。

 TPP11が発効すれば、米国の農畜産業界などは、対日輸出でTPP加盟国よりも不利を強いられる。その現実に直面したとき、むしろ米国は日米自由貿易協定(FTA)交渉を始めるよう、圧力を強めるかもしれない。

 日本は、米国が攻勢をかけても前のめりに動く必要はない。まずは米国にTPP復帰を促すことを基本とすべきだ。それで折り合いがつかなくても、TPPの合意水準を超えるような要求に安易に応じる必要はない。

 ≪中国牽制の意義大きい≫

 米国は、カナダ、メキシコと再交渉中の北米自由貿易協定(NAFTA)で米国産自動車部品の購入拡大を迫るなど、保護主義的な通商外交を隠そうともしない。

 TPP11は、これを許さぬ防波堤である。とりわけ旗振り役である日本は、米国の保護主義を阻む大きな役割が期待されていることを銘記すべきである。

 その際に念頭に置かなければならないのが中国である。習近平国家主席はベトナムでの演説で、自由貿易を牽引する意向を改めて示した。中国は、米国のTPP離脱で生じた空白を埋めるように存在感を高めつつある。メキシコやペルーなどTPP参加国を含む中南米の太平洋同盟が、将来的な中国の参加を視野に入れているとされるのも、このためだろう。

 とくに、習近平政権の「一帯一路」構想が、経済のみならず、軍事的な覇権主義とも密接に結びついた、勢力圏の拡大戦略であることは疑いようがあるまい。

 TPPにはそんな動きを牽制(けんせい)する戦略性がある。国有企業や電子商取引など、中国が受け入れにくい先進的な項目も少なくない。

 恣意(しい)的で不当な国家介入が問題視される中国型経済の拡散を阻むためにも、日本はTPPのような質の高い多国間連携を追求すべきだ。日中双方が加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉にも当てはまることである。

 日米首脳が共有した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、安全保障にとどまらない。TPPはその有効な手立てとなることを米国に粘り強く説くべきである。

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