【産経抄】安くてウマい料理を探せ 12月6日

 「牛舌(タン)の塩づけのごとき安くてウマい料理法を簡単に公表されてはたちまち値上がり必然。これからはもっと、マズくて高いものをオイシク食べる方法を書け」。映画評論家の荻昌弘さんの自宅に、こんなハガキが届いた。

 ▼差出人は、東大の同級生の作家、三浦朱門さんである。食べ物をテーマにしたエッセーでも人気の高かった荻さんは、牛舌によるコンビーフの製造法を紹介したばかりだった。昭和47年に出版された『男のだいどこ』の一節である。

 ▼当時はまだ、日本人にとってなじみの薄い肉の部位だったようだ。三浦さんが心配した通り、現在では正真正銘の人気食材となっている。その点、高齢化と健康志向の高まりを受けて注目されている、鶏のむね肉なら安心である。

 ▼どこでも手に入り、もも肉より値段も安い。高タンパクで低脂肪、疲労回復に役立つ成分も豊富に含まれている。加熱調理をするとパサついてしまう。この難点についても、低温で調理したり酒に漬けたりと、おいしく仕上がる工夫がインターネットで次々に紹介されている。

 ▼食に関する調査・研究を行っている「ぐるなび総研」が、平成29年の世相を最も反映する「今年の一皿」に「鶏むね肉料理」を選んだのも当然である。ちなみに昨年の一皿は、パクチー料理だった。

 ▼美味で安価な料理がもてはやされるのは、今も昔も変わらない。荻さんもある雑誌からアイデアを求められた。「イカのわたの塩まぶし」や「鮭(さけ)の頭のひずなます」など、「原料タダ」の料理を教えて感謝されたそうだ。昨今のスルメイカと鮭の記録的な不漁により、二皿はもはやタダどころか高級料理である。昭和63年に62歳で世を去った荻さんが知ったら、絶句するしかないだろう。

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