【産経抄】暖国の人間ならではの失態 2月8日

 江戸時代の雪国の暮らしぶりを紹介した『北越雪譜』は、「雪国第一の用具」として、そりを挙げている。「そりをひくにはかならずうたうたふ、これをそり歌とてすなはち樵歌(きこりうた)なり」。父親や夫の歌声が聞こえてくると、女たちは一斉に迎えに出る。なんとものどかな光景である。

 ▼そりに比べて文明の利器である自動車は、雪に弱い。北陸地方の記録的な大雪の影響で、福井県内の国道で6日朝に発生した車の立ち往生は、何十時間も続いた。道路に重機が入れず、陸上自衛隊員はスコップを手に夜通しで除雪作業を行ったという。

 ▼眠れぬ夜を過ごし、疲労困憊(こんぱい)のドライバーたちは、とても歌を歌うどころではない。体調不良を訴え、救急搬送される人も出た。コンビニには商品が届かず、暖房用の灯油の配達もなくなった。豪雪は地元の人たちの生活をも直撃している。

 ▼福井県といえば、詩人の三好達治が戦時中、三国町に疎開していた。「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」。教科書にもよく採用される名詩「雪」の作者である。

 ▼もっとも地元の詩人、広部英一は、この作品に批判的だった。「豪雪の底で」と題したエッセーで、雪に「美しさ」と「安息の時間」を感じるのは、漂泊者の美意識にすぎないと断じた。定住者にとって、雪は「恐怖そのもの」であり、「雪はむごい。雪は美しくない」というのだ。

 ▼『北越雪譜』の作者である越後の文人、鈴木牧之(ぼくし)も「雪の浅き国」「暖国」の人だから、雪を見ながら、飲食をし詩歌を作って楽しむことができる、と指摘していた。先日凍った道で尻餅をついたのは、雪のむごさを知らない、暖国の住人ならではの失態だった。

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