【主張】米国の輸入制限 貿易戦争に勝者はいない 混乱回避へ日本は動き強めよ

 世界経済の発展を支えてきた自由貿易の秩序が崩れるのか。大きな岐路を迎えようとしている。

 トランプ米大統領が鉄鋼などに高関税をかけて輸入を制限すると表明し、反発した欧州連合(EU)や中国などは対抗措置の構えをみせる。報復が連鎖する「貿易戦争」が現実味を帯びてきた。

 回避するためには、米政権が独善的な自国第一主義を改め、措置の発動を見送るしかない。

 自国の都合で一方的に輸入を制限する手法は、保護貿易主義の極みであり、容認できない。トランプ氏は、国内外の反対論を真摯(しんし)に受け止めるべきである。

 ≪取引材料にしたいのか≫

 自由貿易の恩恵を受ける日本も、この事態にどう動くかが問われる。安倍晋三首相はトランプ氏に再考を促すべき立場だ。

 世界貿易機関(WTO)は、国際ルールによる紛争解決手続きに基づかず、自国のみの判断で関税引き上げなどの一方的措置を発動することを禁じている。

 制裁発動をちらつかせ、通商関係を有利に運ぼうとするのは、自由で公正な多角的貿易体制を基本とするWTOの理念にそぐわない。これを認めてはならないという点は、かつての日米貿易摩擦などで得た教訓でもある。

 トランプ氏は商務省の勧告を受け、国内法に基づき鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す方針で、近く正式決定する。

 全ての国が対象になる可能性があるが、トランプ氏はカナダとメキシコについて、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉で譲歩すれば対象外にする考えも示している。特定の国を選び、輸入制限を取引材料にする手法にはあきれるほかない。

 だが、「貿易戦争は他国に損害を与えるが米国は無傷だ。貿易戦争は悪いことではない」と述べるトランプ氏の姿勢は恫喝(どうかつ)的だ。

 EUが対抗措置を取るなら、EU製自動車により高い税金を課すという。報復の連鎖を意に介さない発想だ。

 米国が2002年に鉄鋼の緊急輸入制限(セーフガード)を発動した際には、約1年半後にWTOが協定違反と認定し、日欧が報復関税を準備した。これを受けて米国は制限を撤廃した。大国間での報復の応酬となれば、解決までに多くの時間を要しよう。

 負の影響は計り知れない。関税による輸入価格の上昇は、鉄やアルミを使う米産業のコストを増やし、消費者にしわ寄せが行く恐れがある。各国が対抗措置を講じれば、米国はさらに痛手を負う。貿易戦争に真の勝者はいない。

 一部の雇用を守るため貿易秩序を歪(ゆが)め、かえって大きなリスクを抱え込む。ライアン下院議長ら与党共和党からも、発動に反対する声が出るのは当然だろう。

 ≪「孤立」は中国を利する≫

 米政権は、WTOが例外として認める「安全保障上の脅威」を輸入制限の理由にしている。同盟国である日本も対象にするなら、その意図は分かりにくい。

 そもそも、安全保障を理由にしてどこまで例外にできるかは、明確ではない。各国が拡大解釈して乱用すれば、世界貿易は滞る。

 米中間選挙をめぐり、支持層へのアピール材料にしたいというなら、あまりにも軽はずみだ。

 トランプ氏の強硬策の念頭に、中国があるのは確かだろう。WTOルールで反ダンピング関税を連発しても、中国の不公正な貿易慣行は改まらない。だから国内法で対処するという理屈だ。

 だが、本来は日欧と連携して対中圧力を強めるべきだ。その連携の意義を無視し、独善に走る手法は逆効果となろう。

 中国の李克強首相は全国人民代表大会で「保護貿易主義に反対し、自らの合法的な権益を断固として守る」と述べた。孤立しようとする米国を、中国が建前を述べて牽制(けんせい)する。おかしな構図にトランプ氏は気付いてほしい。

 日本からは、世耕弘成経済産業相が米側に輸入制限への強い懸念を伝え、日本製を対象から外すよう働きかけている。だが、自らの難を逃れれば済む話ではない。

 世界の貿易を揺るがす問題であり、外交・安全保障面にも重大な影響を及ぼしかねないことを踏まえた対応が必要だ。

 安倍首相は、トランプ氏と意思疎通を図れる数少ない首脳の一人だ。孤立主義と混乱の回避へ、日本が果たす役割は大きい。

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