【産経抄】独裁者から「殺しのライセンス」を許されたスパイ 3月8日

 昨日のコラムで取り上げた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(ヨジョン)氏にぜひ聞いてみたい。昨年2月にマレーシアで殺害された、2人の異母兄に当たる金正男氏についてである。

 ▼実行犯となったインドネシア国籍とベトナム国籍の2人の女の裁判は、今も続いている。殺人罪で有罪となれば死刑が言い渡される。北朝鮮では「兄殺し」どころか、正男氏の存在自体がほとんど知られていない。北朝鮮に甘い政権下にある韓国でも、風化が進んでいるという。もっとも、米国はけっして忘れていなかった。

 ▼米国務省は、正男氏の事件について、猛毒の化学兵器である神経剤VXが使用されたと断定した。報道官は、殺害を指示した北朝鮮を激しく非難した。国務省から声明が出た日と、南北首脳会談の開催が明らかになった日が重なったのは、単なる偶然だろうか。

 ▼猛毒といえば、英国でも不可解な事件が発生した。ロシア連邦軍参謀本部情報総局の元大佐が娘とともに、意識不明の状態で見つかった。毒物を投与された疑いがある。元大佐は二重スパイとして西側に情報を流し、英国に亡命していた。

 ▼誰もが思い浮かべるのは、ロンドンで2006年に起きた事件である。ロシア連邦保安局の元中佐が放射性物質ポロニウムで毒殺された。元中佐もプーチン政権を批判して、英国に亡命していた。英内務省の独立調査委員会は2年前、プーチン大統領の承認を得たロシアの国家犯罪の可能性が高い、との調査結果を発表している。

 ▼冷戦が終結すれば、もはや007も活躍の場を失い、スパイ小説もすたれていくといわれたものだ。大間違いだった。独裁者から「殺しのライセンス」を許されたスパイが、今も世界中を跋扈(ばっこ)している。

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