【主張】ICPO総裁失踪 「蒸発国家」は異常である

 国際機関のトップが一時帰国後に失踪する。不可解極まりない事件が中国で起きた。しかも、国際刑事警察機構(ICPO)の総裁である。

 2016年からICPO総裁を務めた孟宏偉氏が姿を見せぬまま辞表を提出した。

 汚職捜査にあたる中国「国家監察委員会」は失踪から約1週間を経てようやく孟氏への「調査」を公表した。

 中国公安省は、「汚職」の容疑だとしている。

 192カ国・地域の警察組織の協力をまとめ、現職の中国公安次官も兼ねる孟氏が、拉致同然で姿を消す異常さはどうか。恐怖政治と呼ぶほかあるまい。

 しかも、突然の失踪が国際機関の運営に与える影響は一顧だにされなかった。所在に関するICPOの照会すら中国は無視し、ICPOの機能不全を総裁出身国が招いて恥じない。その傍若無人ぶりには戦慄を覚える。

 ICPO総裁であれ、汚職の嫌疑があれば捜査対象となるのは当然だ。ただし容疑の内容は不明であり、権力闘争に絡む可能性も取り沙汰される。

 現段階で目を向けるべきは「人間蒸発」を招く、強引な身柄拘束の問題である。習近平政権下でこうした拘束は、国内で頻発してきた。孟氏の失踪は、国際社会に中国の強権行使が広がったことを示すものだ。

 最近では、国際的な人気女優の范氷氷(ファンビンビン)さんが100日以上も行方不明となった。その後、高額脱税として処理されたが、范さんほどの著名人が一切の消息を絶つこと自体、普通の国では考え難い。

 処分後に范さんが公表した反省文には「党と国家のすばらしい政策」の賛辞まで盛り込まれた。中国共産党を称(たた)えなければ、国際女優も存在を許されない。それが中国社会の現実である。

 「法治」を掲げる中国だが、法体系の上に共産党が君臨する体制を法治国家と呼べるか。

 中国での捜査のあり方は、被疑者の身柄拘束と自白を重視する。黙秘は党の権威への反抗と受け止められ、拷問や被疑者の権利侵害が後を絶たない。

 中国が国際的影響力を高める中で、世界の常識に挑むように中国流の荒々しいやり方が広がっている。安倍晋三首相は対中関係改善を急ぐが、そうした中国の問題点から目をそらしてはならない。

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