前統合幕僚長・河野克俊 「ありがたい」発言の真意

 【話の肖像画】前統合幕僚長・河野克俊(64)(8)

 〈一昨年の憲法記念日に合わせ、安倍晋三首相は「憲法に自衛隊をしっかりと明記し、違憲論争に終止符を打たなければならない」との見解を表明した。これに河野氏が「巻き込まれる」事態が発生した〉

 安倍首相の発言から間もないころ、外国特派員協会にゲストとして呼ばれました。

 いろいろと話題を呼ぶ協会なので、憲法問題についても聞かれることは行く前から予想していました。始まる前のあいさつで、協会の責任者の方から「ぜひ聞きたいと思います」と予告もされました。

 ですから、首相の提起について見解を求められた場合、問題にならない形でこう答えよう、という方程式を頭の中で用意していたのです。

 〈河野氏は自衛隊員の政治的行為が制限されていることを踏まえ、まず「憲法という非常に高度な政治的問題なので、統幕長という立場から申し上げるのは適当ではない」と線を引いた。だが、そこで質疑が止まってしまえば、せっかく自衛隊のトップを呼んでいるのに、なんてつまらない会見だ、で終わってしまう〉

 私はさらに「一自衛官として申し上げるなら」と前置きをしたうえで、「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば、非常にありがたいと思う」と述べたんです。

 憲法改正の核心は9条にあり、その中心となるのは自衛隊の位置づけです。この問題では自衛隊は当事者であるわけです。国会が改正を発議し、国民の過半数が認めたという仮定に対しての私の気持ちを述べました。

 これに対して当事者の私がなんの意思表示もしないというのでは、健全な社会とはいえないと思いました。今でも政治的発言だとは思っていません。

 〈一部の野党幹部は問題発言だと指摘したが、菅義偉官房長官は「個人の見解で、全く問題ない」と会見で一蹴した〉

 衆院憲法調査会でも批判が出たんですが、自民党の中谷元・委員(元防衛相)は「自衛官も国民で、言論の自由はある」と擁護してくれました。

 言論というか、私としては気持ちを言ったまでで、言論とも思っていません。

 マスコミは国民に代わって記者会見で相手に聞くわけですよね。「言えません」と答えたら問題なかったと思いますが、国民に自衛隊の顔が見えないと思いました。

 〈優れた方程式で事なきを得た格好だが、基盤の弱い政権で擁護論が出なければ、異なる展開も起こりえた。客観情勢を見極め、あえて議論を提起した印象もある。「答えられません」で納得できるタイプではなさそうだ〉

 この質問に対して自衛官がすべて同じ気持ちを持つかどうかは別です。若い世代では憲法明記で「ありがたい」と思うのが多いでしょうが、年配の世代には「今さら明記しなくても」という人もいます。(聞き手 石井聡)

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