【主張】タイの民政復帰 「強権行使」に真の決別を

 2014年のクーデター以来、軍事政権が続いていたタイで、3月の総選挙(下院選)を経て新政権が発足し、民政への復帰を果たした。

 ただし、クーデターの当事者で、軍政の暫定首相を務めたプラユット氏が「続投」し、軍出身の主要閣僚も留任した。軍の影響力を色濃く残す布陣である。

 形ばかりの民政復帰であり、祝意を表するのは尚早だろう。民主的な手続きに沿って政権運営を進めなければ軍政と変わらない。プラユット氏には首相としての適切な振る舞いを求めたい。

 タイは今世紀に入ってから、タクシン元首相派と反タクシン派が対立し、群衆による街頭行動、衝突が繰り返されて混乱した。

 軍は「国の安定」を名目に政治に介入して権力に居座り、言論統制などの強権行使を正当化してきた。だが、こうした言い分はもはや通らないと認識すべきだ。

 民政復帰を、クーデター後に冷却化した欧米との関係修復の契機としなければならない。そのためにも、民主的手法に徹することが不可欠なのである。

 タイ社会最大の課題は国民の和解である。軍政は群衆の不満を抑えこんだだけで、タクシン派と反タクシン派の分断解消に有効な手立てを講じたとは言い難い。

 分断の背景にあるのは、都市部と農村部、エリートと貧困層の間で広がる格差である。解決困難な根深い問題だが、克服の努力なくして国の安定は実現しまい。

 軍政は過去に何度も総選挙を約束しながら、勝てないとみるや先送りを繰り返してきた。最終的に実施したのは、自らに有利になるよう選挙制度を変えたからだ。

 総選挙では、タクシン派政党が下院第1党となり、親軍政の政党は第2党となった。新政権は、少数政党を合わせて過半数ぎりぎりの勢力を確保した19党連立だ。

 政権運営の先行きは多難とみるべきである。プラユット氏が軍政並みの強引な手法を取るなど、権威主義へと傾くことになれば、東南アジアでの勢力拡大を志向する中国の接近を許しかねない。

 タイには多くの日本企業が拠点を置いている。日本との経済的な結びつきは深く、同じ民主主義国家として発展することが何よりも望ましい。タイの民主化や安定に資するよう、日本は支援を惜しむべきではない。

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