【主張】年金財政検証 「人生百年」支える制度を 現実見据え負担を分かち合え

 人生百年時代の公的年金はどうあるべきか。それを考えるうえでの基礎となる年金の財政検証結果を、厚生労働省が公表した。

 経済が堅調に成長し、女性や高齢者の労働参加が進むシナリオなら、制度の持続性を維持できるというのが結論である。それでも将来世代の給付水準が現在の世代より大幅に目減りする現実を直視しなければならない。

 経済が停滞すれば、さらに厳しくなる可能性もある。子や孫の世代に安心できる制度を手渡すためには、負担と給付のありようを抜本的に見直す必要があろう。

 痛みを伴う改革であってもタブー視せず、税制や働き方も含めて長寿社会にふさわしい最適な制度を構築する。そのための骨太の議論を早急に始めるべきである。

 ≪持続性に楽観許されぬ≫

 財政検証は、5年に1回行われる公的年金の「定期健康診断」である。そのための指標が所得代替率だ。会社員と専業主婦というモデル世帯の受け取る年金が、現役世代の平均的な手取り収入と比べて、どの程度の割合かを示す数値のことである。

 令和元年度に年金を受け取り始める世帯の所得代替率は61.7%だ。人口減や高齢化によって年金を支える現役世代が減る中で、この数値が低下するのはやむを得ない。政府は50%を割らないことを制度上の目安としている。

 今回、6つのシナリオで所得代替率を試算した。このうち実質経済成長率を0.4%とするシナリオでは、28年後の数値が50.8%となって下げ止まる。これは5年前の検証と大差がない。

 だが、楽観はできない。このシナリオで描く賃金などの伸びは最近の実績より高く、想定通りにいくとはかぎらないからだ。経済成長と労働参加が進まなければ、50%を割り込む別のシナリオもある。そうした事態にも対応できる制度にしなければならない。

 懸念するのは、現在の受給者が受け取る年金水準について、これを抑制する仕組みが十分に働いていなかったことである。

 公的年金には、少子化や長寿化などに合わせて水準を抑える「マクロ経済スライド」という制度があるが、これは物価・賃金の上昇局面でしか発動されない。このため約15年前の制度化後、いまだ3回分しか発動されていない。

 抑制が不十分なら、しわ寄せは将来世代にいく。子や孫の給付を先食いすることは許されまい。物価下落時でも給付を適切に調整できるよう検討を急ぐべきだ。

 給付水準の抑制は避けられないとしても、将来世代の所得代替率の低下はできるだけ少なくしたい。そのための手立てを講じることは極めて重要である。

 ≪老後支える自助努力も≫

 短時間労働者に厚生年金を適用するのも一案だ。現在は大企業だけに義務付けられているが、中小企業にも拡大する。厚生年金保険料は企業が半額を負担するため企業側の反発もあろう。そこに目配りが必要としても、国民年金(基礎年金)だけの人に厚生年金が給付されるのは大きい。社会全体の所得代替率も改善される。

 基礎年金の加入期間を現行の40年から45年に延ばすことも検討に値する。所得代替率を7%程度改善できるというのが財政検証の試算だ。加入期間が延びれば、給付額の2分の1を占める国庫負担も膨らみ、最大で年約1.2兆円が必要になる。財源も含めてグランドデザインを描くべきだ。

 国民年金は厚生年金より給付額が少なく、給付水準の目減りも厚生年金より大きい。年金の最低保障機能をどう維持するかという観点を忘れず制度を改善したい。

 現在の制度は「60歳で引退し、65歳からは年金で悠々自適」という旧来のライフスタイルに基づく設計のままである。例えば、厚生年金に40年以上加入すると、保険料の一部が払い損になるケースもある。働きながら年金を受け取る人の課税は現役世代より控除が大きく、著しく有利なのもそうである。高齢者の就労が当たり前になりつつある中で、これらが適切かどうかの議論は避けられまい。

 老後の暮らしを支えるのは公的年金だけではない。老後資金を増やす資産形成などの自助努力も必要だ。老後に2千万円の蓄えが必要とした金融庁審議会の報告書が問題提起したのも、そこに主眼があった。その点を今一度思い起こし、長寿化時代に備えたい。

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