【主張】虐待死の母に実刑 社会で命を守る仕組みを

 東京都目黒区で昨年3月、5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが両親から虐待されて死亡したとされる事件で東京地裁は保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告に懲役8年の判決を言い渡した。

 公判を通じて改めて明らかになったのは、結愛ちゃんの命を守る存在として、被告があまりに無力だったことである。

 主体的に虐待を行っていた元夫の雄大被告はもちろん、優里被告についても判決は「不保護の犯情はかなり悪く、被告人もその中で相応の役割を果たしたといえる」と断罪した。

 子供の命を守るのは親の責務である。だが親による虐待の末に失われる命は誰が救えばいいのか。社会が救う仕組みを、国が作らなければならない。

 結愛ちゃんの命は、救えるはずだった。香川県に居住していた際に2度、結愛ちゃんは一時保護の措置を受け、両親は目黒区への転居前、児童相談所や関係医療機関から転居後の支援の必要性の説明を受けていた。だが被告は転居後に管轄の児相職員の訪問を受け、これを拒絶していた。

 公判に証人として出廷した香川県時代に結愛ちゃんを診察した医師は「助けられるのは母親しかいなかった」と証言した。一方でその母親について「(元夫の)支配下から抜けられない様子」とも評価していた。病院のカルテには結愛ちゃんの話として「お父さんのキックがいっぱいある。おなかもキックされたよ」との言葉が残されていた。

 この母親に結愛ちゃんを助けることができないことは、悲惨な結末や公判を待たず、児相間や医療など関係機関との連絡で把握し、適切な措置を取るべきだった。

 具体的には、児相による家庭への「介入」である。従来、児相の業務の重点は「支援」に置かれてきた。公判に出廷した児相の職員も「結愛ちゃんもお母さんも救いたかった」と涙を流した。だがそれでは子供の命を守れない。排除すべき親が存在することを冷徹に見極めなくてはならない。

 6月には児相の「介入」機能を強化する改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立し、安倍晋三首相は「躊躇(ちゅうちょ)なく一時保護に踏み切れるよう、大幅増員で必要な専門人材を配置する」と述べた。急ぐべきだ。この公判を母親を裁くだけで終わらせてはならない。

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