【主張】全世代型社会保障 給付抑制から目そらすな

 ■支え手増やす雇用改革進めよ

 人生100年時代といわれる高齢社会が本格化している。一方で少子化により社会保障の支え手である現役世代はどんどん減ってきた。放置すれば暮らしを支える社会保障制度が立ちゆかない。

 この国難をいかに乗り越えるのか。政府の全世代型社会保障検討会議に求められるのは、長期的な視点に立った戦略であり、これを具体化する改革案である。

 その点で先の中間報告は、いかにも踏み込み不足である。負担増と給付抑制の両面で、痛みを伴う改革に真正面から向き合う必要があるのに、打ち出された方策は総じて甘さが目立つ。特に給付抑制はほとんど手つかずだ。これでは安心できる未来を描けまい。

 ≪「嵐の前」に制度整備を≫

 高齢者向けに偏りがちな政策体系を改め、現役世代を含む全世代型とする安倍晋三政権の発想は正しい。子供や孫の世代も安心して医療や介護、年金などの社会保障サービスを受けられるようにしなければならない。そのためにどうするかである。

 日本は「中福祉、低負担」といわれる。給付と負担の乖離(かいり)が社会保障制度の根本的な問題だ。

 給付と負担のバランスを取るには、支払い能力に応じて負担増を求め、真に必要な人に重点的にサービスを行う改革を加速するほかない。これが基本である。

 差し迫った課題は、高齢化などで費用が膨張している医療や介護だ。高齢者人口の伸び率は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者入りする令和4年から急伸する。その前の3年間は「嵐の前」と認識したい。

 中間報告は医療分野で、75歳以上の高齢者のうち、一定所得以上の人の窓口負担を2割とし、それ以外を1割とする方針を盛り込んだ。線引きは、来年6月の最終報告までに詰めるという。

 医療保険制度を支える現役世代の過重な負担を考えると、所得に応じて2割を求める改革は避けて通れない。いたずらに高齢者が受診に二の足を踏むことがないよう制度設計には万全を期したい。

 2割負担をめぐる与党内の議論は、1割を併記するかどうかでもめた。だが、大切なことは、一定の負担増はやむを得ないと国民に丁寧に説明することである。そこから目をそむけてはいけない。

 残念なのは、医療保険制度を維持する上で極めて重要な給付抑制に踏み込んでいないことだ。

 中間報告は、「大きなリスクを支えられる公的保険」とうたう一方、小さなリスクの見直しに触れていない。例えば、湿布薬や保湿剤など、市販で手に入る薬を公的保険の対象から外すことも検討すべきだろう。

 介護分野は物足りない。介護サービス利用者の自己負担について2割負担の対象者を拡大する議論は先送りされた。要介護度が低い利用者に提供される家事援助の見直しにも触れていない。

 ≪負担増への理解を促せ≫

 年金では、パート労働者の厚生年金適用を拡大する。これまで501人以上の大企業で働く人は一定時間以上働けば厚生年金に加入できたが、これを順次拡大し、最終的には51人以上の中小企業まで対象を広げる。

 本人の老後の年金額が増えるだけでなく、年金制度に加入する全ての人の年金額が改善される効果がある。ただし、中小企業にとっては保険料の負担増だ。適用拡大をさらに進めるには中小企業の理解を得る努力が欠かせない。

 中間報告で重要なのは、医療や介護、年金とともに、労働を柱の一つに位置づけたことだ。支え手の減少傾向を和らげるためにも、高齢者や女性の労働参画を促す意義は大きい。

 中間報告は「雇用の期間を縦に延ばすとともに、雇用の選択肢を横にも広げていく」と明記し、企業に70歳までの就業機会を確保するよう努力義務を課すとした。具体的には定年廃止や70歳までの定年延長などを求めるという。

 日本の高齢者の就業意欲は世界的にみても高く、健康な人もたくさんいる。年齢にかかわらず働きたい人が働ける環境を整える改革は、人生100年時代を迎えた日本に欠かせぬ取り組みだ。

 もちろん、働き手を増やす改革だけで、明るい未来を描けるほど日本の社会保障制度は安泰ではない。大事なのは、医療、年金、介護、雇用の抜本的な改革を一体的に進めることである。

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