【主張】タイ「コロナ強権」 軍主導の加速を憂慮する

 タイで約5年続いた軍事政権から民政復帰し1年が経過したが、新型コロナウイルス対策名目の言論規制が続くなど強権支配が強まり、憂慮すべき状況である。

 3月下旬以来の非常事態宣言は7月末までの予定が、4度目の延長でさらに1カ月延びた。タイの感染者は3千人台で、経済活動はほぼ再開している。封じ込めたいのはむしろ、反政府集会だとみられて仕方あるまい。

 昨年の総選挙で、親軍政党「国民国家の力党」は第1党になれなかったが、民政復帰後も、クーデターの当事者で軍政トップのプラユット首相が「続投」した。新憲法に、軍が統治に関与する仕組みが盛り込まれていたからだ。

 形ばかりの民政復帰とはいえ、流血の惨事など混乱の続いたタイが、国民和解に向けて歩み始め、言論の自由が徐々に取り戻されることを日本や米欧などの民主主義国家は望んだ。そうした期待は完全に裏切られた。

 プラユット政権は、体制に批判的な勢力への圧力を強め、若年層に人気の野党「新未来党」を解党に追い込んだ。

 これを契機に、学生らの間で反政府集会が広がったが、首相に権限を集中し、集会を禁止したり、メディアを検閲したりできる非常事態宣言で、プラユット首相は強権を手にした。

 コロナ禍で反政府集会の「休戦」を強いられた学生らの不満はいま、非常事態宣言そのものに向かっている。プラユット政権は延長を撤回すべきである。

 同様の動きは隣国カンボジアでもあり、非常事態宣言下、通信傍受を含め国民の権利を広範に制限できるという法律が成立した。

 東南アジアを中心に各国でのこうした動きを警戒しなければならない。強権支配が強まるほど、これを問題視しない中国が接近し、影響力を強める。

 与党「国民国家の力党」内でも軍主導が加速しており、党首が学者出身のウッタマ財務相から、首相の陸軍の先輩にあたるプラウィット副首相に代わり、これに伴い、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の旗振り役だったソムキット副首相が辞任した。

 ソムキット氏の不在で、タイのTPP参加が遠のけば、後押しした日本の打撃も少なくない。プラユット政権の動向に注視しなければならない。

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