鉄鋼大手がCO2の3割削減にメド コークス→水素→水に

 【スゴ技ニッポン】

 鉄鋼業界が、鉄を作る際に生じる二酸化炭素(CO2)の削減に取り組んでいる。プロセスの見直しなどで、現在に比べて、実に3割の排出削減を目指すものだ。2030年ごろまでに技術を確立し、50年までに実用するという、かなり長期にわたるプロジェクトだが、このほど基礎技術の確立にめどをつけ、実用化に一歩近づいた。鉄鋼は、電力や運輸、一般家庭を除いた国内の産業部門で最もCO2排出量が多い。実用化されれば日本全体の環境負荷低減に大きく貢献しそうだ。

 「大きな意味のある年。要素技術で見込んでいた数値が、実用段階へもっていけるのではないかとの見通しが立った」

 3月24日に日本鉄鋼連盟(鉄連)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開いた説明会。NEDOの坂内俊洋環境部長は、16年度の取り組みを振り返り、技術開発が順調に進んでいることを強調した。

 ■実用化までに30年超

 NEDOと新日鉄住金などの鉄鋼大手は、製鉄の過程で発生するCO2を3割減らすプロジェクト「COURSE(コース)50」を08年から進めてきた。製鉄における水素の活用と、副生物の高炉ガスからCO2を分離・回収する技術の開発が柱で、それぞれ1割と2割の排出削減を目指している。

 鉄は原料の鉄鉱石を高炉に投入した後、石炭を蒸し焼きにしたコークスのガスと反応させ、酸素を奪うことで取り出す。この「還元反応」の過程でCO2が排出される。その排出量は、鉄の生産量にほぼ比例し、削減にはおのずと限界がある。これに対し、コース50ではコークスの一部を水素に置き換えることを目指している。この水素還元法なら、酸素と反応しても水になり、環境負荷がほとんどないためだ。

 ただ、問題もある。高炉内部に水素を吹き込むと、鉄鉱石が細かく砕けて粉状になって炉内に充満し、水素や熱風が流れにくくなる。また、反応が進むと「吸熱反応」によって高炉内の温度が下がり、熱不足に陥ってしまう。

 そこで08年度からの「フェーズ1」では、12年度までの第1段階で要素技術を開発。さらに13年~17年度の第2段階では、新日鉄住金の君津製鉄所(千葉県君津市)内に試験高炉を設置し、より実際の操業に近い環境で問題点を洗い出してきた。

 約80億円をかけて15年10月に完成した試験高炉は、高さ約6.5メートル、容積12立方メートル。実際に使われている高炉の最大5000立方メートルよりは小さいが、試験高炉としては世界最大となる。

 ■試験操業で予想以上の成果

 16年度は、昨年7月と今年2月に2回の試験操業を実施。13年の段階では6.2%の排出削減が可能とみていたが、実際に稼働させてみると9.4%と大幅に上回り、試験段階ながら1割削減にめどがついた。

 今後は、高炉をさらに大型化した場合の課題を克服していく考えだ。18年度以降の「フェーズII」では、数百億円をかけて100立方メートル規模のより大きな実証高炉を建設する構想もあるが、フェーズIが予想以上の成功を収めたことで、高炉のデータとシミュレーションの組み合わせでも対応できる可能性が出てきたという。このほか、君津の試験高炉にはCO2分離・回収装置も併設し、やはり目標の2割削減にメドをつけている。

 鉄は自動車などあらゆる製品に必要不可欠な素材だが、業界が排出するCO2は年間1.8億トンに達する。日本全体の排出量の約14%を占めるだけに、削減への期待は大きい。

 エネルギー効率の高さで世界トップを走る日本の鉄鋼メーカーはともかく、他の国は環境負荷を減らすのにまだそれほど熱心とはいえない。ただ、水素還元が実用化されたころには、顧客が取引条件に加え、競争の重要なポイントになっている可能性もある。

 一方、製品の生産から廃棄に至るまでの環境負荷を総合評価する「LCA(ライフサイクルコスト)」の考え方が浸透するなか、CO2を排出する鉄は他の素材に比べて不利な立場に立たされつつある。コース50のプロジェクトリーダーを務める新日鉄住金の上野浩光執行役員は「(CO2削減が)世界的な政策になったときに議論を始めたのでは遅い」と、オールジャパンで開発に取り組む意義を強調する。(経済本部 井田通人)

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