【観光立国のフロントランナーたち】佐賀県・山口祥義知事(1)佐賀空港の愛称を「九州佐賀国際空港」に 九州の玄関口目指す

 ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)の中村好明社長(日本インバウンド連合会理事長)が、日本の観光立国実現に奔走するキーマンたちと、その道筋について語り合う大型対談「訪日ビジネス最前線 観光立国のフロントランナーたち」。今回から4回にわたって佐賀県の山口祥義知事が登場します。

 2015年に知事に就任した山口氏は、総務省時代に大手旅行会社JTBのシンクタンク、JTB総合研究所に出向し、地域振興のアドバイザーをした経験をお持ちです。インバウンドを含む佐賀県の観光戦略を中心にお話しをうかがいます。(JAPAN style 訪日ビジネスアイ5月22日掲載)

中村 佐賀県のインバウンドの状況や課題についてどのように見てらっしゃいますか。

山口知事 佐賀県の2016年の外国人延べ宿泊者数は約24万6000人で前年比28.8%増と非常に高い伸び率になりました。九州の中でインバウンドの伸び率は4年連続で一番です。ご存じのように昨年4月、熊本地震が発生し、九州全体では大きなダメージを受け、九州全体の外国人延べ宿泊者数は、翌月の5月はマイナス28.9%まで落ち込みました。

 しかし、7月から九州7県と九州観光推進機構が一体となって、「九州ふっこう割」を提案するなど積極的な情報発信をした結果、年間では4.2%のプラスでした。その中で、佐賀県は九州のインバウンドの窓口としての役割を果たしてきたのかなと思っています。

 昨年1月のことなのですが、佐賀空港の愛称を「有明佐賀空港」から「九州佐賀国際空港」に変更しました。「佐賀」の空港というよりも「九州全体」の空港にしたいという県民のみなさんの声に加え、インバウンドの利用がずっと右肩上がりになっていることを受けたものです。年間の空港利用者数も70万人に迫るところまできています。

中村 愛称に「国際」という文字を入れられたのは、非常にユニークですね。成田空港や関西空港と肩を並べている感じがします。

山口知事 空港には、正式名称のほかに愛称をつけられるんです。他県の空港も愛称をつけています。高知県は坂本龍馬の名前を入れて高知龍馬空港、静岡空港は、富士山静岡空港という感じです。正式名称とは別で、愛称の付け方は自由なんですね。

 以前、韓国ソウルに出かける用事があり、ソウルから佐賀便で帰国したことがありました。すると、機内で「ただいまから佐賀国際空港に降ります」というようなアナウンスが流れたんですよ。その時、私自身、「はあ?」と思いました。でも、韓国の航空会社が「国際空港」という風に呼んでいるんです。でも、それを聞いていて「あれ、この名前いいな」と思いました。

 佐賀空港の上海便を利用する九州在住者のうち半分以上は福岡県民なんです。そこは、あまりこだわらず、むしろ、これだけインバウンドが伸びているので、皆さんが認知しやすい愛称にしたいということで、いろいろと研究してこの名前にしました。

中村 佐賀県には唐津や有田、伊万里などのブランドが海外にも知られていました。そういったものが、実際の訪日客の動きと少しずつつながってきているような気がします。

旅行代理店での出向が貴重な経験に

山口知事 私の原点の一つとして、総務省時代に官民交流で大手旅行会社のJTBに出向したことがあります。その後、知事選に立候補したのですが、私の選挙戦でのキャッチフレーズを「人を大切に、世界に誇れる佐賀づくり」としました。それは現在、佐賀県の長期計画にもそのまま使わせてもらっています。「世界に誇れる」と訴えたわけです。

 それまでは日本の中の佐賀という訴えが多かったのですが、今はもう時代はインバウンドになっています。また、ものの見方も「世界基準」が重視されています。その中で、「佐賀のモノ」は、世界的に知られた有田焼も含め、「世界基準」といえるものがたくさんあります。世界のお客さまから本物でないと称賛してもらえないんですよ。

中村 佐賀県は、「薩長土肥」という言葉で知られているとおり、幕末もそうですが、もっと昔の、吉野ケ里遺跡をはじめとして古代から日本の歴史の表舞台に立ってきました。戦略的に、また、地政学的に佐賀県はいい場所にありました。

 近世になって、政治・経済の中枢が東京に移ってからは外国は一旦遠くなりましたが、訪日客が直接地元にやって来るインバウンドの時代になると、大陸に近い佐賀県には新たな可能性が生まれてきます。そういった点において佐賀県もいろいろ戦略を練らなくてはならないですね。

山口知事 その通りです。今、本当にチャンスが来ていると思っています。私がJTB に出向していた2013~14年度にかけては、まだ政府がほとんどインバウンド戦略を打っていなかったので、訪日外国人観光客数は800万くらいだったと思います。政府の見通しも2020年で2000万人にしようというくらいでした。今の目標の半分です。それでもそのハードルが高い目標で、業界でも「えっ!」と驚くものでした。当時、私は地域振興ディレクターだったのですが、その目標の達成に向けて、高橋広行社長と一緒に東京都の舛添要一知事に会いに行って「都の戦略はこれでいいのか」と提案をしたりしていました。

 当時、JTBは「47DMC」戦略といって、むしろ着地型の商品を作ろうと支店長に檄(げき)を飛ばしていた時代です。グローバル(世界)とローカル(地方)、つまりグローカルを目指しました。さらに、単なる物見遊山ではない地域の地理・特性を生かした商品開発を進めるという大きな2つの波がありました。今思えば、佐賀県にとって有利なテーマだったと思います。

 つまり、世界基準でものを考えれば、浮かび上がる県であり、地域とのつながりも多い。ローカリズムが非常に進んでいるところです。まさに「和」が強いところ、そこがこのグローカル戦略と非常に合う、この時流の流れに乗っていけば佐賀は自ずと浮かび上がってくるという期待を持っています。

中村 インバウンドを含む旅行・観光の視点にたったお考えをお持ちであることがよくわかります。そういうと、全国47都道府県知事の中で、旅行会社で働いた経験のある知事ってなかなかいないのではないでしょうか。

山口知事 私だけかもしれませんね。当時ですが、訪日外国人観光客が東京を楽しんでもらうために都バスやはとバスをどうしたらいいのかということも考えていました。「明治神宮に停まっていくバスがない、停留所がない」とか、「クレジットカードが使えない」とか、いろいろな課題がありました。今でこそ、こんなに受け入れていますが、日本のインバウンドは当時、全然だめだったんです。訪日客に人気の宿泊地である箱根もそうでした。なので、非常にいい時代、そういったことを考えていられる立場にいたなと思っています。

中村 まさに総務省の行政官としての視点とは違う視点を蓄積してこられたことが、いまの仕事にすごく直結しているということですね。

山口知事 JTBに出向する前、私は、総務省で過疎対策室長をしていたのですが、何でJTBが私に白羽の矢を当てたのか意味が分かりませんでした。関係ないだろうと思っていたのですが、さっき言ったようにJTBが着地型のビジネス戦略を進めていたことを考えると、そういうことだったのかと理解できました。星空が美しい村とか、緑豊かな町というのをターゲットにして地域色豊かな商品を作る。要は観光振興と地域振興をドッキングするようなことをしたかったのだと思います。でも、そういった意味でも、この仕事に携われたのは、非常に面白かったですね。(続く)

【プロフィル】山口祥義(やまぐち・よしのり)

 1965年佐賀県出身。東京大学法学部卒業後、1989年自治省(現:総務省)入省。鳥取県商工労働部長、長崎県総務部長、総務省地域力創造グループ過疎対策室長、東京大学大学院総合文化客員教授などを経て、2013年に官民交流でJTB総合研究所に出向。地域振興ディレクターとして各地の地域振興を支援。ラグビーワールドカップ2019組織委員会事務総長特別補佐として開催地決定や盛り上げに尽力した。14年に退官後、15年1月の佐賀県知事選で初当選した。

【プロフィル】中村好明(なかむら・よしあき)

 1963年佐賀県生まれ。ドン・キホーテ入社後、分社独立し現職就任。自社グループの他、公共・民間のインバウンド振興支援事業に従事。2017年4月、一般社団法人日本インバウンド連合会理事長に就任。日本インバウンド教育協会理事。ハリウッド大学院大学および神戸山手大学客員教授。日本ホスピタリティ推進協会理事・グローバル戦略委員長。全国免税店協会副会長。みんなの外国語検定協会理事。観光政策研究会会長。一般社団法人国際観光文化推進機構理事。著書に『ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦』(メディア総合研究所、2013 年)、『インバウンド戦略』(時事通信社、2014年)、『接客現場の英会話 もうかるイングリッシュ』(朝日出版社、2015年)、『観光立国革命』(カナリアコミュニケーション、2015年)、『地方創生を可能にする まちづくり×インバウンド 「成功する7つの力」』(朝日出版社、2016年)がある。

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