支持率最低の文大統領に援軍? 韓国財閥が相次ぎ巨額投資計画

【ビジネス解読】

 サムスングループをはじめとする韓国の財閥企業が相次ぎ、巨額の投資計画を打ち出している。半導体や車載電池材料、第5世代移動通信システム(5G)など次世代技術の強化を狙ったもので、日本企業の成長戦略にも影響しそうだ。ただ、計画は、経済政策の行き詰まりで支持率が低迷する文在寅(ムン・ジェイン)政権への“配慮”との指摘もあり、政権のくびきが先行きの経営戦略の重荷になる恐れもある。

 サムスンが8月、今後3年間で180兆ウォン(約18兆円)の投資と4万人の雇用を表明したのに続き、9月には鉄鋼大手のポスコが5年間で45兆ウォンの投資と2万人の雇用を、通信大手のKTが5年間で23兆ウォンの投資と3万6000人の正社員採用をそれぞれ発表した。

 サムスンは、東芝メモリとシェアを争う主力の半導体メモリー事業の増強のほか、人工知能(AI)、車載電池などの自動車部品、5G、バイオなどの新規分野に戦略投資。KTは5Gや仮想現実(VR)といった次世代のインターネットビジネスに注力する。ポスコも本業の競争力強化に加え、電気自動車(EV)向けに成長が期待される蓄電池材料や、太陽光などクリーンエネルギー関連といった新たな収益源に資金を投じる。

 各社の計画は、いずれも技術革新や市場の構造変化を見据えている。トップダウン型の韓国財閥は果敢かつ迅速な投資に定評がある。過去、韓国勢に後れをとり、半導体や液晶などで市場の主導権を奪われた日本企業にとって、その投資戦略への警戒を怠ることはできない。

 だが、計画が100%、各企業の自主的な経営判断で策定されたものではないとすると見方は変わる。

 韓国大手紙の中央日報によると、財閥企業の大型投資・雇用計画の発表はこのわずか約1カ月で5社。文政権の発足以降では十大財閥のうち計9つを数え、合計の投資計画額は421兆ウォン、新規採用規模は26万5000人にも達するという。

 短期間に足並みをそろえた財閥の投資計画は、まるで文政権への「奉加帳」に映る。貧富の格差や朴槿恵(パク・クネ)前大統領と大企業との親密ぶりを批判し、財閥改革を掲げる文政権は財閥への投資要請といった“すり寄り”を否定している。

 だが、各社の計画表明は、政権で経済を担当する金東●(=なべぶたに八の下に兄)(キム・ドンヨン)副首相兼企画財政部長の財閥訪問とほぼ歩調を合わせており、中央日報や韓国経済新聞など多くの韓国メディアは、財閥の動きを政府の雇用創出の求めに対応したものだと報じている。

 韓国統計庁が9月12日発表した8月の失業率は、前月比0.4ポイント悪化の4.0%だった。若年層(15~29歳)の失業率も0.6ポイント悪化の10.0%と、8月としてはアジア通貨危機直後の1999年以来の高水準で、文政権が公約とする雇用改善は惨憺(さんたん)たる状況だ。韓国ギャラップが9月7日発表した調査では、文大統領の支持率は過去最低の49%と初の50%割れに沈み、不支持理由の大半は経済問題が占めた。この時期にサムスン、ポスコなどの投資・雇用計画発表が集中したのはやはり偶然ではないだろう。

 では、各社の投資・雇用計画は文大統領への助け舟となるのか。

 支持率低下の最中に投資計画を明らかにしたポスコは関連産業や協力会社などを含めた広義の雇用創出効果を12万人、KTは14万人としている。額面通りなら、文政権の経済運営に一定の援軍となる。

 しかし、各社が競争力を強化したい次世代の成長分野の投資に必要な人材と、文政権が目指す雇用改善はおそらく一致しない。AIや5G、EV関連といった日本や米国、中国、欧州と厳しい開発競争を繰り広げている先端分野で、有益な人材が今、失業し職探しをしているだろうか。

 5Gやクリーンエネルギーのインフラ整備など、確かに韓国内の需要に対応する設備投資が、職を求める労働力を吸収する形は想定できる。とはいえ、サムスンやポスコが、鉄鋼や自動車関連、電子部品の設備投資の多くを、雇用吸収を前提に韓国内に優先して振り向けるとは思えない。トランプ政権の米国第一主義に象徴される通商環境の変化、文政権による最低賃金の大幅引き上げといった労務コストなどを考えれば設備の集中はリスクだ。

 さらに、技術変化のスピードも重要な視点だ。

 例えば、EV向けで現在主流のリチウムイオン電池では中国メーカーやLG化学、サムスンSDIの韓国勢が存在感を示している。ただ、リチウムイオン電池よりも高性能で安全性も高い、次世代の「全固体電池」が2020年代には実用化され、急速に市場が立ち上がるとの見方もある。

 調査会社の富士経済は全固体電池の市場を35年に2兆7877億円と予測。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、全個体電池に関する国別特許出願件数(02~14年)は日本が54%とトップで、中国(16%)に次いで韓国は3位(12%)だ。文政権に恩を売るために投資を急ぐようなことがあれば、技術の世代交代で設備は陳腐化しかねない。

 日本メーカーを悩ませてきた韓国勢の先を読んだ投資の実行力を考えれば、文大統領は財閥の計画に過大な期待はしない方がいい。(経済本部 池田昇)

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