紙幣の顔よりも「消費増税路線」変えよ “増税空気”に支配されるな

【お金は知っている】

 フジテレビが紙幣刷新をスクープした。産経新聞も9日の朝刊最終版で新しい紙幣の顔となる渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎の顔写真入りで完璧に報じた。

 3人の肖像は令和の時代、ムード・チェンジを図る安倍晋三政権の意図にふさわしいと評価するが、おカネの顔だけで、日本経済再生を実現できるはずはない。肝心なのは、間違った経済政策を改めることで、最優先すべきは令和に入って5カ月後に予定している消費税率の10%引き上げを少なくても凍結することだ。5%への税率引き下げなら、大いに空気が変わるだろう。

 何度も拙論が主張してきたことだが、消費税増税はあらゆる面でチェックしても、不合理極まる。デフレを再来させ、経済成長をゼロ%台に押し下げ、勤労世代や若者に重税を担わせる。

 結婚や子作りを難しくする増税をしておいて、若い世代の教育無償化や子育て支援を行うとは、欺瞞(ぎまん)である。マラソンランナーにバケツ一杯の水を抱え込ませておいて動けなくし、コップ一杯の水を差し出すというようなものだ。

 もう一つ、財務省は消費税増税が政府債務削減によって財政健全化のために必要だとするムードを創り上げ、政治家やメディアを呪縛している。これも真っ赤な嘘であり、政府債務はむしろ増税後、急増している。

 グラフは1997年度の消費税率3%から5%、2014年度の5%から8%へのそれぞれの引き上げ後の中央政府の債務残高の推移を示している。いずれのケースとも、政府債務は増加基調が続いている。原因ははっきりしている。税収が増えても、そっくり同じ額を民間に還流させないと、経済は萎縮する。

 増税ショックを和らげるためという財政支出拡大額も増収分の一部に過ぎない。しかも、一時的な泥縄式の補正予算なので経済効果は不十分で、経済がゼロ・コンマ台の成長に陥る。その結果、消費税以外の税収が伸びない。となると、今度は財政支出を大幅削減するので、デフレ病が進行する。そこで、財政健全化という同じ名目で、増税を行う、という悪循環にはまる。

 この債務悪化傾向が多少でもなだらかになるときは、輸出増で法人税収が持ち直す局面に限られる。円高や輸出減で法人税収が落ち込むと、たちまち債務悪化に拍車がかかる。こうした失敗は1997年度の増税後に体験済みなのに、その教訓から行政府、国会、財界、学界、メディアも学ぼうとしない。

 舌鋒鋭い評論で知られた山本七平氏は著書「『空気』の研究」(文春文庫)で、太平洋戦争時、必ず失敗するというデータを無視した戦艦大和の特攻出撃を例に、「空気」に順応して判断する思考方式を描き出した。戦時の場合、他に選択肢はなかったのだが、現代の日本が増税空気に支配されるとは情けない。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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