なぜ身売り?老舗飲食店の損得勘定 様変わりする「事業承継」のあり方

【ビジネスの裏側】

 後継者難に悩む飲食店が、経営を大手企業に託すケースが相次いでいる。経営危機の末の身売りとは異なり、事業拡大に向けて飲食チェーンとのM&A(企業の合併・買収)に踏み切る老舗店も現れた。大手企業の資金をもとに、「のれん」のブランド力を生かす発想だ。地域競争の激しい飲食業界にあって、最近は人手不足と材料費の高騰が経営を圧迫。従来の親から子に後を継がせる「事業承継」のあり方は、様変わりしている。(山本考志)

 ■「成長のための手段」

 「M&Aは会社を売った、買ったという時代ではありません。会社を成長させるための一つの手段」

 今月17日、大阪市内で開かれた飲食業界の事業承継などをテーマにしたセミナーで、登壇した講師は経営者らにこう力説した。

 セミナーを主催したのは中小企業のM&A仲介を手掛ける「日本M&Aセンター」(東京)だ。同社によると、飲食業を含む食品業界でのM&Aが平成30年に国内で過去最多の158件を記録。トップ数社が市場を独占する銀行やコンビニ業界に比べて、中堅・大手がひしめく飲食業界は買い手が多く、売り手側は好条件を引き出しやすくなっているという。

 セミナーでは、福岡市の有名うどん店「因幡うどん」が、博多ラーメンの「一風堂」などを全国展開する同市の「力の源ホールディングス(HD)」に事業を売却した事例を紹介。元の経営者を顧問にし、店の従業員も残したままで、福岡空港への出店やうどんとラーメンのコラボ商品が発売されているなどM&Aの効果をアピールした。

 講師を務めた江藤恭輔食品業界支援室長は「M&Aにはこれまで業績悪化の末の『身売り』という後ろめたさがあったが、社長や従業員は変えずに存続させる事例も多く、成長戦略のための手段になった」と指摘。そのうえで、「承継する側は資本力や販路を持つ企業との提携、受ける側は自社にはないブランドを得て事業範囲の拡大を目指すケースが目立つ」と分析した。

 ■こだわりの技生かす

 関西で近年、注目を集めているのが、顧客に長年愛されてきた老舗店から飲食チェーンへの事業承継だ。

 老舗大衆食堂「銀シャリ屋ゲコ亭」(堺市堺区)は25年、「まいどおおきに食堂」などを展開する飲食チェーン「フジオフードシステム」(大阪市北区)にのれんを引き継いだ。

 今年9月には大丸心斎橋店(大阪市中央区)が建て替えを経てオープンする本館の10階にゲコ亭を出店する。訪日外国人客(インバウンド)需要を見込んだレストランフロアで、天ぷらやすしなどを扱う大阪の老舗が並ぶ中、担当者は「こだわりの白米と日本の家庭料理を味わえる店として、幅広い客層に楽しんでもらいたい」と意気込む。

 ゲコ亭はかまどで炊く白米への徹底したこだわりから「飯炊き仙人」と呼ばれる元店主、村嶋孟さん(88)が昭和38年に創業。高齢のため後継者を探していた際、学生時代からの常連だった同社の藤尾政弘社長が名乗り出た。

 フジオフードシステムは事業を引き継ぐにあたり、村嶋さんから指導を受けるため社員をゲコ亭に派遣。同社もかまどで炊いた白米にこだわりを持っており、調理場に立つことがなくなった村嶋さんの技は今、ゲコ亭や他店の味に生かされている。

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