これでは世界の笑いもの 「老後2000万円問題」で野党が追及すべきだった視点

 【経済インサイド】

 95歳まで生きるには夫婦で2000万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書問題。参院選前に野党は「最大の争点になる」(立民幹部)と踏んでいたが、投票を分けるような議論には至らず、選挙後はほとんど話題にもなっていない。ただ、改めて報告書を読み返すと、この報告書には、世界では“常識”となっている重要な視点が抜け落ちていることに気付かされる。野党が本当に追及すべきだった重要な視点とは…。

 「年金の話は朝日が期待するほど盛り上がらなかったね」。6月23日に行われた記者会見で、麻生太郎金融担当相は朝日新聞の記者の質問に、皮肉たっぷりに答えた。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が行った合同世論調査でも、参院選で金融庁の報告書への政府対応を考慮するかどうかについては、期日前投票を済ませた人も含め「考慮しない・しなかった」が55・2%と過半数を占めた。

 年金だけでは老後資産をまかなえない可能性があるということは、多くの人にとっては周知の事実で、野党の執拗(しつよう)な攻撃を、多くの有権者が冷めた目で見つめていたことがうかがえる。麻生氏も、選挙戦で多くの有権者の意見を聞く中で「不足するという人もいれば年金で十分という人もいて、受け止めはいろいろだというのが、率直な実感だ」と語った。

 与野党から厳しい指摘を受け、一時は重たい雰囲気に包まれていた金融庁内からも「役所が作った文書で、これほど読まれたものはない」と、前向きな意見も聞こえ始めている。思わぬ形で“炎上”したが、その結果として金融庁が本来伝えたかったメッセージも広がっているからだ。報告書を素直に読めば、長寿化が進む人生100年時代において、「これまでより長く生きる以上、多くのお金が必要となる」と呼びかけている考えがよく分かる。

 報告書は麻生氏が受け取りを拒否したため、現在は宙に浮いた状態だが、金融庁が伝えたい本来のメッセージに変わりはない。報告書のうち記載に問題があった部分を修正するか、別途、新たな報告書のようなものを作成するかは未定だが、同様の情報発信は金融庁から今後も行われる見通しだ。

 ただ、報告書には重要な視点が抜け落ちていることも見逃せない。

 それは「女性」という視点だ。女性は平均すると就業率や賃金が男性に比べて低く、育児のために仕事を離れる期間があることから年金受給額も少ない一方で、寿命は長いという現実がある。つまり、女性の方が老後資金が不足するリスクは高く、より手厚いケアが必要なのだ。

 このことは世界共通の課題で、20カ国・地域(G20)の下部組織の「GPFI」が6月にまとめた、国際社会が直面する金融面での高齢化の課題と対応についての報告書でも「女性は特に重要な(支援)対象」と指摘している。

 同月行われたG20財務相・中央銀行総裁会議の関連イベントのシンポジウムでも、女性の高齢化リスクはたびたび指摘され、世界銀行のクリスタリーナ・ゲオルギエヴァ世界銀行最高経営責任者(CEO)も、労働市場で女性が参画していくことの重要性を指摘。出身のブルガリアの「議論したいなら男性を、物事を進めたいなら女性を呼べ」ということわざを紹介し、会場からは大きな拍手がわき起こった。

 世界的にみても女性の社会進出が遅れている日本。参院選の結果をみても、女性の当選者は28人で、当選者に占める割合は22・6%にとどまっている。金融庁の報告書から、「女性」の視点が欠けていることも、そのことが問題視されないことも、女性問題に対する日本人の意識の低さの表れと言えそうだ。(経済本部 蕎麦谷里志)

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