「ビルボードを呼んできたサラリーマン」 北口正人さん

夢実現?会社員だからこそ

 名だたる音楽業界の“ブランド”を誘致し、日本展開してきた北口さんだが、出演アーティストらとのエピソードがおもしろい。

 忘れもしない開業間もない平成2年。ジャズ界に大きな影響を与え、親日家でもあった米ドラマー、アート・ブレイキーが公演後に倒れた。即入院となりスタッフらが毎日病院で付き添ったが、ある時、看護婦長に呼ばれる。「深刻な事態なのかと緊張したら、『アートさん、何とかしてよ。看護師の手を握って離さないのよ』と言われたんです」。回復して帰国する際には「私はこれからもう誰にもサインしない。最後にマサトにサインしてやる」と持っていたノートに書いてもらったが、「何て書いてあるのか分からない」。ところが、アートは肺がんでその3カ月後に亡くなった。

 また、米ジャズピアニスト、ジョー・サンプルをホテルに迎えに行ったときのことだ。突然「胸が痛い」と言い出し、救急車を呼んで同乗して病院に向かった。診断は心筋梗塞で即手術という事態に。「身内でもないのに、ここにサインをしてくださいと手術の承諾を求められました」。命拾いをしたジョーとその後食事をしたとき、「俺はフランケンシュタインになっちゃったよ」とシャツのボタンをはずし、手術跡を見せて笑ってくれたのもいい思い出だ。

 帰国時に関西空港で「マサト、アイスクリームを買ってきてほしい」と頼んできたのは、米のシンガー・ソングライター、ナタリー・コール。聞けば糖質制限中だったそうで、“口止め料”としてアイスをおごってもらった。妊娠中だった女性ボーカリスト、メイザ・リークには、公演後の夜「破水した」と告げられ、慌てて病院を探したことも。健康保険証がないためにどこの病院にも拒否され、ようやく見つかった病院に運び込んで無事、出産した。その際、看護師から「アメリカ人は我慢が足りないのね。出産のとき大声で叫んでいたわ」といわれ、北口さんはとっさに「彼女は有名なボーカリストですから(大声を出すのも当然ですよ)」とウイットをきかせた返事をしたこともあった。

 同い年のジャズピアニスト、小曽根真さんとは北口さんが新婚の頃、妻と一緒に米国を旅行したときに出会って以来の仲だ。「ビルボード」の出演アーティストでもあり、「ジャズとは畑違いのクラシックにも挑戦している姿を見て、私も随分と勇気づけられます」と話す。

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