内田恭子「幼い日々を思い出させてくれる」 世代を超えて愛される、かこさとしさんの絵本

 昔、よくつけていた香水の香りを嗅いだとき。よく聞いていた音楽を聴いたとき。時間も空間も超え、その当時の自分に一瞬にして戻ることがある。普段は頭のはるか片隅に追いやられ、もはや忘れ去っていたのかと思われていた五感や気持ちが実にリアルによみがえってくる。絵本もそう。ページを開くと、幼いころの私がそこにいる。

 不思議なことに、かつて好きだった絵本がかならずしも、当時の自分に連れて帰ってくれるわけではない。懐かしい気持ちはあるものの、それとはまた違う。それとは反対に、自分が親になってから初めて出会う絵本が、なぜか幼い日々を思い出させてくれたりもする。かこさとしさんの絵本は私にとってどれもそんな作品ばかりである。

 小さいころから「ぬき足さし足しのび足」で歩くのはどろぼうと決まっていた。「赤ちゃんを起こさないよう、ぬき足さし足、しのび足で通る」と慣用句で使われたりもするけれど、「ぬき足さし足しのび足をするのはどろぼう!」というのが小さいころの常識だった。

かこさんの生前、雑誌の取材でご自宅を訪問しました

かこさんの生前、雑誌の取材でご自宅を訪問しました

 語呂がいいのもあり、友達とどろぼうごっこをするときには、リズムをつけながらそのフレーズを笑いながら繰り返し言い合っていた。だから大人になった今でも、この慣用句を見ると無意識にどろぼうを連想してしまう私。子どもに読み聞かせをするために、数十年ぶりに「どろぼうがっこう」を開いたときの心の高ぶりはすごいものだった。

 「そうそう!ここにぬき足さし足しのび足があったのよ!」。かこさんの作品で幼いころ見ていたそのフレーズとどろぼうたちが、物語を離れていつの間にか私の頭の中にセットで定着してしまっていたのだ。

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