吉本興業の謝罪会見が、壮絶にスベった理由

 吉本興業が謝罪会見で、壮絶にスベってしまった。

 と言っても、説明の中に紛れこませたギャグがウケなかったとかそういう類の話をしているわけではない。

 要領の得ない説明を延々と続け、イラついた記者から発言をさえぎられる。世間が知りたい、疑問に感じているポイントに対し、ことごとくズレた回答を連発する。生中継を見ていた多くの視聴者が、「おいおい、大丈夫かよ、この会社?」と背筋に薄ら寒いモノを感じさせてしまった、という意味において「スベった」と申し上げたのだ。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

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 例えば、大スベりした中でも明らかに「大事故」となっていたのが、宮迫さんと田村亮さんから指摘された「テープ回してないやろな」「会見をしたら連帯責任で全員クビ」「オレにはクビをする力がある」などのどう喝発言に対する岡本昭彦社長の釈明だ。

 テープうんぬんは、腹を割って話して場を和ませるためのジョーク。クビ発言も詐欺被害者のことを考えず、個々がバラバラの話をしていたのを見て、父が息子に対して「もうお前なんか勘当や」と叱り飛ばすノリで口走ったものであり、圧力をかけたつもりは毛頭ないという。

 吉本新喜劇に登場するチンピラ役がするような、あまりに無理筋な言い訳で、宮迫さんや亮さんの説得力のある話と比べても、かなり釈然としないというか、ツッコミどころが満載なのだ。

 サムい対応をする不祥事企業の内部

 では、日本中の人々に「爆笑」を届けてきた吉本興業ともあろう人々が、なぜ会見ではここまでサムいことになってしまうのか。

 いろいろなご意見があるだろうが、これまで報道対策アドバイザーとして、この手のサムい対応をする不祥事企業の内部を見てきた立場で言わせていただくと、これは吉本興業が「既得権益」でメシが食えてしまっていることが大きい。

 今回、亮さんがポロッと言ったように、吉本興業の株主は在京5社、在阪5社のテレビ局である。じゃあテレビ局に対して頭が上がらない立場かというと、そんなことはなく、吉本がいなければ、テレビ局は明石家さんまさん、松本人志さんをはじめ多くの人気芸人が調達できないので、持ちつ持たれつの関係だ。

 要するに、「資本」と「芸人」をテレビ局と吉本で互いに持ち合うことで、強固なアライアンスを結び、他の新規参入を阻み共存共栄していく「既得権益集団」をつくっているということである。このような「ムラ社会」特有の閉鎖的なカルチャーが、世間が「はあ?」と首を傾げるおサムい対応の原因なのだ。

7月19日、吉本興業は宮迫氏に対して、マネジメント契約の解消を発表した(出典:吉本興業ホールディングス)

7月19日、吉本興業は宮迫氏に対して、マネジメント契約の解消を発表した(出典:吉本興業ホールディングス)

 「原子力ムラ」「製薬ムラ」なんて言葉をググってもらえば分かるが、基本的に既得権益集団に頭までどっぷりと浸かっている企業は、「世間からどう見られている」という意識が希薄になっていく。これは冷静に考えれば当然で、既得権益を握っている限り、新規参入に脅かされることもないし、「ムラ」の内部で安定的に仕事がまわってくるので、世論に忖度(そんたく)する理由がない。

  「霞ヶ関ムラ」の中で死ぬまで生きる「上級国民」の皆さんを思い浮かべれば分かりやすい。彼らが、我々一般国民とズレまくった発言をしたり、しょうもない不正やうそを繰り返したりするのは、どんなに世論から叩かれても「ムラ」の中で安泰だからだ。

 そう考えれば、同じく「芸能ムラ」の中でテレビ局とズブ……ではなくWin-Winの関係を築いている吉本興業が、宮迫さんと亮さんの「謝罪会見」を全力で潰しにかかったというのは、ちっともおかしな話ではないのだ。

 「ムラの秩序」を優先

 これまで危機に直面した企業の話し合いに何度か同席したことがあるが、ほとんどの経営者は、とにかくいろいろな理屈をつけてとにかく謝罪会見を開かない方向へ持っていきたがる。「まだ調査中だ」「会見を開いても傷を広げるだけで逆効果だ」なんて感じで、「とりあえず静観しよう」という結論へ持っていくための材料を必死にかき集めるのだ。

 このような「隠ぺいバイアス」はごく普通の企業であっても当たり前のように存在するのだが、「ムラ」の中で生きる人々の場合、その傾向はさらに強まっていく。

 先ほど申し上げたように、これらの企業はどんなに社会から叩かれても、「ムラ」の中にいる限りは食いっぱぐれない。むしろ、逆に優等生ぶって謝罪会見などをしてしまったことで、「ムラ」の既得権益に世間の注目が集まるなどやぶ蛇になってしまう。つまり、何か不祥事が発生しても「静観する」ことのほうがインセンティブとなるのだ。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

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 今回も吉本側が会見を渋ったのは、芸人側が受け取った金銭の額がはっきりしていなかったとか、雑誌『FRIDAY』で新たな反社との写真が掲載されたので、今はまだ会見できる段階ではないなどと説明していたが、記者からしつこく質問が重ねられると、放送局に対してギャラはもらっていないと説明をしていたのに、それが「うそ」だったと打ち明けられて、何も考えられなくなった的なことを口走っていた。

 要するに、吉本興業という組織は、ファンの不信感や、芸人個人の将来よりも、「ムラ」の仲間にどう思われるのか、「ムラの秩序」をどうすれば守れるのか、ということに頭を悩ましていたということなのだ。そういう本音ベースの部分をひた隠しにして、「我々はみんな家族」とか「芸人ファースト」という歯の浮くようなもの言いをしたので、壮絶にスベってしまったのである。

 そして、この「大スベリ会見」の影の立役者というか、きっかけをアシストしたのが、吉本興業の顧問弁護士だ。

 日常的にどう喝を受けていた

 顧問弁護士という人たちは法律のプロではあるのだが、「世論」にうとい。そのため、どうしても法的に後ろめたいことがない場合、コンプライアンス面が引っかかっていない場合、会見を止める側へまわりがちなのだ。筆者のような立場の人間が、問題を長期化させないためにも、世間に対して何かしらの説明をしたほうがいいと進言しても、マスコミやSNSにネタを提供するだけで、会社としてなんのメリットもないと潰しにかかるのだ。

 今回、宮迫さんと亮さんによれば、吉本の顧問弁護士は「今さらひっくり返らない」「会見に成功なんてない」といった主旨のことを述べたというが、筆者も全く同じ言葉を某不祥事企業の顧問弁護士から言われたことがある。

 そんな顧問弁護士のスベリ具合に加えて、あの会見をサムくさせているのが、全体に漂う「体育会ノリ」だ。岡本社長は天理大学のアメリカンフットボール部でクォーターバックを務めていたということもあり、「もともと体育会系の気質があり、厳しくモノを言うことはある」(日刊スポーツ 2019年7月21日)ことは業界でも有名だった。

 事実、極楽とんぼの加藤浩次さんも、朝の情報番組『スッキリ』で、宮迫さんらへのどう喝発言を受けて以下のような「素顔」を暴露している。

 「岡本さんをよく知っていますが、そういう人です。若い人にそういうことしてるのも見たことある。会社の社員に対してもどう喝みたいなことを言う人だっていうことを僕は知ってます」

 また、マネージャー時代から知る松本さんも、『ワイドナショー』で「たまに言葉遣いが横暴だったりして、20年ぐらい前からそれは気になっていた」と述べている。

 みな同じ釜の飯を食ってきた「仲間」なので大目に見てきたが、かなり以前から、岡本社長のパワハラは組織内では問題視されていたということなのだ。

 これは、おじさん管理職が職場や酒の席で、女性社員や若者を執拗(しつよう)にイジるのとよく似ている。本人は自分を面白いと勘違いしているので、『踊る!さんま御殿!!』のさんまさんのように、若者からネタを引き出し、場を和ませていると信じている。しかし、ハタからみると、単にしつこいセクハラやパワハラを続けているようにしか見えないのだ。

 会見で「家族」や「ファミリー」を繰り返す

 日大の「悪質タックル」をはじめ諸々のスポーツ不祥事でも分かるように、体育会は基本的に「パワハラ」で成り立っている。「上」が「下」に対して、きついしごき、どう喝、「愛のムチ」を振るうことで、組織は最強となり、個人の人間性も磨かれるという人材育成哲学があるのだ。

 こういう組織で育った人間がトップにつけば、「下」にパワハラをするのは当然だ。

 女子体操選手の横っ面を叩いて怒鳴り散らしたコーチが、「自分もそうやって指導されたので、それが当たり前だと思っていた」と述べたように、人は自分が「下」の時にやられたことを、「上」になった時に繰り返す生き物なのだ。

 しかし、こういう「体育会ノリ」にありがちなイキったおじさんのサムさもさることながら、個人的にあの会見で一番スベっていたのは、「家族」「ファミリー」「身内」という、今の吉本のイメージにそぐわないパワーワードをこれでもかと繰り返していた点だ。

 ブラック企業にお勤め経験のある方ならば分かるだろうが、ブラック企業ほど「オレたちは家族だ」とか「ファミリーは大事だ」とか言う。殴っても家族なので愛がある。パワハラをしても、愛があるので指導。これまで面倒見てきてやったじゃないかと言う恩を売って、暴力を正当化するのだ。

 契約書もない口約束で、ギャラは「搾取」といっていいほど低い。会社の方針に従わず、個人の権利として代理人弁護士を立てれば、お前はクビだ、引退せよと一方的にどう喝する。それを批判されると、「我々はファミリー」を繰り返す。

 ご本人たちにその意識が全くないところが逆に深刻だが、世間でいうところの「ブラック企業」の条件をほとんど満たしている。

 岡本社長は会見冒頭、反社と関係を断つためにコンプライアンスを徹底すると強調した。結構な話だが、その前にまずはご自分たちの組織カルチャーや、ビジネスモデルのコンプライアンスから見直すべきではないのか。

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