「俺はここで腹切るわ!」とブチ切れ…テレビ局で“切腹未遂”騒動起こした市議

【衝撃事件の核心】

 テレビ局の中で「俺はここで腹切るわ!」と懐から包丁を取り出したのは、20年近いキャリアを持つ現職のベテラン市議だった。4月下旬、大阪市福島区の朝日放送で包丁を出したとして、銃刀法違反の疑いで大阪府富田林市の左近憲一市議(70)が現行犯逮捕された。自身の政務活動費(政活費)をめぐる報道に不満を持ち続け、同社の報道局幹部と直談判中に“切腹”を図ろうとして取り押さえられたというお粗末な話。もともと「激高しやすい性格」だったという。一方、同社との話し合いには市職員3人も公務で同行。政活費問題に「市も住民訴訟でかかわっているから」というのが理由だが、市議の報道機関への抗議に市職員が随行することは果たして公務なのか…。

 DVD提出にキレた?

 朝日放送や大阪府警福島署によると、発端は平成27年1月と3月、同社のニュース番組「キャスト」の報道。左近市議が交通安全を呼びかける文言とともに、自身の名前を書いた看板の設置に政活費を使っていたことを問題視した内容だった。以降、左近市議からは「事実と違う」などとして電話や来社による抗議が複数回あったという。

 ただ、左近市議の周辺によると、報道から事件までの約2年間、左近市議と朝日放送の間に延々とトラブルが続いていたわけではなかった。引き金になったのは、地元の「南河内オンブズマン」が大阪地裁に起こした政活費をめぐる住民訴訟の証拠品だった。

 オンブズマンは27年9月、「複数の富田林市議が政活費を違法に使っている」として、市長に対し、政活費を使った左近市議らに「違法支出分」を返還させるよう求める訴訟を起こしていた。期間は22~26年度で、対象は市議会6会派と3人の市議。本来の使い道から外れ、違法に支出されたとする政活費の額は総額約7千万円に上る。

 訴訟が進む中、オンブズマンが証拠品の一つとして地裁に提出したのが、発端となったニュース番組を録画したDVDだった。これは朝日放送が提供したものではなかった。

 左近市議は今年3月下旬ごろ、弁護士を通じてDVDの存在を知ったという。左近市議の言い分とすれば、「事実と違う。捏造(ねつぞう)ではないか」としていた内容が、証拠として地裁に提出されることに怒りを感じたわけだ。

 議論は平行線、突如…

 そうして迎えた事件当日の4月21日。左近市議は朝日放送へ市の公用車で向かった。なぜか、松田貴仁・市長公室長と2人の幹部級職員も、左近市議の要望に応じて同行していた。松田公室長によると、事件を起こす前の左近市議は、興奮するなど不審な動きは特段なかったという。

 朝日放送の報道局幹部2人と、1階エントランスのテーブルを挟んで話し合いが始まったのが午後3時ごろ。左近市議はこう話したとされる。

 「放送によって精神的にも肉体的にもダメージを受けた。放送に携わる者として、そうしたことを分かってもらえないのか」

 問題の放送があったのは27年4月の市議選(統一地方選)直前というタイミングだった。左近市議はこの市議選で1800票以上を集め、24人中9位(定数19)で無事5選を果たしたが、前回選挙からは500票余りも票を減らしていた。放送が選挙に影響を与えた可能性もあるとして、朝日放送側に謝罪を求めようとしたのかもしれない。

 一方、朝日放送側の説明は「事実を適切に報道した」の一点張り。左近市議は、自分としては不本意な映像が裁判に証拠として提出された-という理屈で抗議を続けたが、話は平行線をたどるだけだった。

 「自分がこれだけ一生懸命、何回も説明しているのに、あんたら聞く耳持たんのか!」

 話し合いから15分ほど経って次第に興奮してきた左近市議は、上着の内側に隠していた「タオルで包まれた何か」(松田公室長)を右手で取り出し、テーブルの上に置いた。タオルの中から姿を見せたのは、刃渡り約18センチの文化包丁だった。

 「そしたら俺はここで腹切るわ!」

 左近市議はそう叫び、左手で包丁を持ち上げたが、隣にいた松田公室長がすぐさま制止。即座に呼ばれた警備員も「落ち着いてください」と促したが、左近市議は「俺は落ち着いている。(他者に)危害を加えようと思っているんやない。俺は腹切ろうと思っただけや」と興奮冷めやらぬ様子で応じた。

 「なかなか、(包丁を)離してくれませんでしたよ…」と振り返る松田公室長。警備員らに取り押さえられた左近市議は110番で駆けつけた福島署員に、正当な理由なく包丁を携帯していたとして現行犯逮捕された。

 市幹部同行「なぜ公務」

 逮捕後、左近市議は取り調べに「(朝日放送に)文書を提出した後、腹を切るつもりだった」と素直に容疑を認めた。朝日放送広報部は「報道にかかわる話し合いの中で暴力的な行為がなされたことは誠に遺憾」とのコメントを出した。

 それにしても、なぜ市の幹部職員が左近市議に同行していたのか。

 松田公室長は放送があった当時、秘書課長などとして報道対応にあたったほか、他の幹部職員2人も事情を知る立場にあった。こうした背景もあって左近市議から同行を求められたという。

 見方によっては、複数の市幹部が訪れることで「市側が圧力をかけている」ようにも解釈できる。逮捕当日の夜、松田公室長らは報道陣から「なぜ同行したのか」「どこが公務なのか」と追及を受けた。

 これに対し、松田公室長は「当時の状況を正確に説明するため同行した。左近市議を援護する目的はない」と繰り返し主張した。朝日放送との話し合いは、市長が訴えられている住民訴訟が関係しており、公務として同行しても「問題ない」という姿勢を貫き続けた。

 左近市議と朝日放送の話し合いと同様、市と報道陣のやり取りも平行線をたどるばかりだった。

 「落ち着いてから話す」

 議会事務局によると、左近市議は11年に初当選し現在5期目。自民会派の幹事長を務め、20年5月から1年間議長も務めたベテランだ。一方、市議会で「それは違うやろ!」と声を荒らげるなど、激高しやすい性格も指摘されていた。

 事件当日、自民党大阪府連は党紀委員会を開き、左近市議の除名処分を決定。「今回の事案に対し遺憾の意を表明するとともに、強い憤りを感じる。議員本人に対し猛省を促したい」とするコメントを出した。

 5月2日、大阪簡裁は罰金10万円の略式命令を出し、左近市議は釈放された。

 釈放当日、左近市議は憔悴しきった様子で取材に応じ、「今は(取材は)やめてほしい。落ち着いてから話をする」とだけ語った。だが、大型連休が終わっても辞職を含む進退の動きはなく、同じ会派の市議らへの連絡もない。

 市民からは「このまま市議の座に居続けられると思うのか」との非難の声も上がる。左近市議は、早急に“切腹”騒動を自らの言葉で説明する必要がある。

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