“全員一丸”が生む職人技 学芸員語る「京アニ」の強さ

 18日に起きた放火事件で多数の犠牲者が出るなどした京都市伏見区の「京都アニメーション」。日本のアニメ界を牽(けん)引(いん)してきた「京アニ」の強さの源は、人材育成にあった。雇用を安定させ、女性に活躍の場を与え、「全員一丸」の温かい組織から、唯一無二の作品が生まれた。京アニをよく知る京都文化博物館の主任学芸員、森脇清隆映像・情報室長は、「あまりにも不条理な出来事」と肩を落とした。(岡田敏一)

 ■女性の活躍

 森脇さんは、平成15年に同館で開催した映像イベントで一緒に仕事をして以来、京アニと深い関わりをもつ。そんな森脇さんの目に、京アニの人材育成のシステムは、まぶしく映った。

 不安定な働き方が少なくないアニメ業界において、正社員を採用し、責任ある仕事を任せ、成長させた。さらに、女性に活躍の場を与え、女性の声を作品に反映させた。「京アニは、社長夫人がアニメの作画の手塗りを請け負ったことが始まりなので、女性の意見を埋没させません」

 その女性たちが大ヒットさせたのが、女子高生がバンドを組む青春物語「けいおん!」(21年)。「20代後半の女性スタッフたちが、『萌(も)えキャラ』と呼ばれる、性的特徴を強調した女性ではなく、女性から見た女子高生の何げない日常を表現することで支持を集めたのです」。京アニでは「萌え」という言葉は使わない。「代わりに『愛』という言葉を使います。原作への愛をキャラクターに絞り込むのです」

 ■小津作品と共通点

 民主的で年功序列を廃した意見形成や作品作りも、特徴的だった。京都の商店街が舞台の『たまこまーけっと』(25年)の制作時のこと。「舞台のモデルである出町桝形商店街(京都市上京区)に私を含めスタッフみんなで取材に行ったのですが、取材中、監督にみんながどんどん意見するんです。全員で寄ってたかって作品をつくるという印象でした」

 作品づくりも、実に丁寧で繊細だった。「京アニでは、まず、紙に絵を手描きし、それをスキャナーで読み取り、デジタル化します。いまも手描きにこだわっていますが、彼らが描く線は、着物における手描き友禅の線と同じでした。まさに職人技なのです」 

 そうして生み出された「けいおん!」などの作品は、「東京物語」のような小津安二郎監督の作品との共通点があるとも。「魔術もスーパーヒーローも出てこない。日常のささいな出来事で主人公たちが成長するという物語は、まさに小津作品のテクニックと言っていい」

 ■音の大合唱

 森脇さんは10年ほど前、火災が起きた第1スタジオに足を運んだことがある。「扉を開けた瞬間、50人くらいのアニメーターたちの、作画作業時に鉛筆やペンを走らせたときに出る『トントントン』という音の大合唱が響いてきて、驚いた記憶があります」

 しかし、それよりもっと驚いたことがある。森脇さんが訪れたとき、第1スタジオは、木目張りの床に机や椅子が並び、アットホームな雰囲気だったが、「キャラクターデザインを担当していた女性社員が出産した直後、育児スペースが作られたと聞きました」。

 京アニの、人を大切にする個性的で先進的な社風や作品は、今後どうなっていくのか。

 「見学希望者が押し寄せ、日本中の腕自慢のアニメーターらが入社を希望する京アニで起きたあまりにも不条理な出来事に、いまは言葉が見つからない」。森脇さんはそう話した。

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