京アニ放火 中津川女子中学生殺害事件の遺族「真実を伝えることが名誉回復」

 京都アニメーションの放火殺人事件では、犠牲者の実名公表をめぐる議論が起きた。被害者報道の意味とは何か。岐阜県中津川市で平成18年、中学2年生だった次女、清水直(なお)さん=当時(13)=を少年により殺された母、恵子さん(53)に聞いた。

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 私は報道被害で本当に苦しめられました。加害少年の付添人弁護士は少年が接見で話したことを毎日マスコミの前で披露し、それがまるで真実のように日々報じられました。「万引や家出の常習犯」などという根も葉もない噂がテレビの全国放送で流され、コメンテーターは無責任に娘をおとしめるコメントをした。小さな町は事実無根の噂話で持ちきりでした。

 実名か匿名か、警察から発表に関する意向を尋ねられるような場面はありませんでした。でも、もし匿名で報じられたらさらに興味本位の噂話が広がって、もっとひどいことになったのではないかと思います。

 私の願いは、加害少年の嘘や心ない噂話でおとしめられた娘の名誉を回復すること。それには真実を正しく伝えるしかない。本当の娘の姿を伝えられるのは実名報道だと思っています。

 これまで、積極的にメディアを通じて発信してきたわけではありません。事件直後はメディアスクラムを防ぎたいと、警察の被害者支援に頼りました。少年審判と調停が終わったとき、会見はしましたが、「審判や調停の内容は一切話してはいけない」と言われたので、その通りにしました。その結果、言いたいことは何も言えなかったのです。

 私も最初から弁護士に依頼して加害少年の嘘を「そうじゃない」と逐一指摘すれば、加害少年の一方的な言い分ばかりの報道にはならなかったかもしれない。でも、そう気づいた今は、マスコミも直の事件には関心がない。そんな状況で、伝えたいことを発信するのはとても難しい。相当なエネルギーも必要です。

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 警察の方には良くしていただきました。でも、直が加害少年の「交際相手」とされた発表は間違いです。少年審判の判断も、たくさん間違っています。警察も裁判所も、本気で調べれば加害少年の嘘を見抜けたはずなのに、そうすることなく終わってしまった。だから、真実を確認するために調停を申し立てました。

 十数回の調停に、本人は2回出席しました。確認したかったのは、審判で認定された「直が廃虚の中に入ろうと言い、割れたガラスの中に手を入れてカギを開けた」「交際をめぐり口論になった」という、直が主導的に犯行のきっかけを作ったかのような状況は本当なのか。怖がりの直が、あんなところに自ら入るはずがないのです。「正直に言って」と促すと、加害少年は「僕が中へ行こうと誘い、カギを開け、先に入りました」と明かしました。

 殺害状況も違っていました。落ちていたのぼり旗で首を絞めたのではなく、別の部屋から持ってきたのぼり旗を輪っか状にしたものを用意していて、それを首にかけて引っ張って絞めた。口論もなくいきなり殴られ、「何するの」が直の最期の言葉だった-と。周到に用意された、計画的な犯行だったのです。

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 少年審判は少年の更生のために行われるというなら、まずは真実を話させ、反省させることが大前提ではないでしょうか。付添人弁護士が罪を軽くさせるために尽力し、裁判所でも警察でも嘘が通じれば、少年が更生するわけがない。少年院を出た加害少年は民事調停中に子供をつくって結婚し、覚醒剤事件を起こして逮捕されました。4年ほど前には再逮捕され、刑務所に入りました。月たった3万円の賠償金すら、今は支払われていません。

 加害少年もその親も、事件から逃げ続けています。でも、私は加害少年がきちんと償うかどうかを、生涯かけて見届けなければならない。直が生きた証しを消すわけにはいかない。

 事件から13年の今年、命日はとてもつらかった。直は13歳で亡くなったので、今後は生きた時間よりも死んでからの時間の方が長くなるだけなのです。

 でも母親として、娘の名誉だけは絶対に回復させたい。清水直という少女は、こんな子だったと正しく伝えたい。そうすることで、ずっと直のお母さんでいられると思っています。

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 中津川女子中学生殺害事件 平成18年4月、岐阜県中津川市のパチンコ店の空き店舗3階で当時15歳の少年が中学校の後輩だった清水直さんを殺害。少年は殺人容疑で逮捕され、岐阜地検は検察官送致(逆送)を求める刑事処分相当の意見を付けて少年を殺人の非行事実で岐阜家裁に送致した。同家裁は7月、非行事実を認定し、殺意についても「未必の故意があった」としたが、少年を3年以上中等少年院に送る保護処分を決定した。

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