和歌山、ダムの事前放流50回実施 被害防止へ紀伊半島豪雨の教訓

 東日本に記録的な大雨をもたらした台風19号では、計6カ所のダムで水位が限界に近づき「緊急放流」が行われたものの、昨年の西日本豪雨での教訓としてクローズアップされた降雨前の「事前放流」はなされなかった。平成23年9月に死者・行方不明者計88人が出た紀伊半島豪雨に見舞われた和歌山県では、4つの利水ダムを治水にも活用する協定を関西電力と結んでおり、協定に基づく事前放流をこれまでに50回実施、緊急放流の回避につながっているという。

 ダムは通常、大雨が降ったときに流入量の一部をため、残りを放流して洪水調整を行う。だが、満杯に近い状態になった場合はダム本体の決壊を防ぐため、流入量と同量を放出する。これが「緊急放流」で、非常時の最終手段だ。昨年7月の西日本豪雨では6府県8カ所で緊急放流が行われ、愛媛県の2カ所では下流で約3千棟が浸水し8人が死亡した。

 一方、事前放流は水道用水供給や発電などの利水目的でためている容量の一部を洪水の発生前に放流し、洪水調整のための容量を一時的に増やす。放流後に雨が降らなければ水不足による給水制限などが起きる可能性もあるため、実施には利水権者全員の合意が必要だが、緊急放流による下流への被害を未然防止できる可能性がある。西日本豪雨を受けた国土交通省の有識者による検証会議でも事前放流による対策が提言された。

 こうした事前放流を行っている和歌山県は、紀伊半島豪雨の教訓を生かしている。

 紀伊半島豪雨では広い範囲で総降水量が千ミリを超え、県が管理する椿山(つばやま)ダム(日高川町)▽二川ダム(有田川町)▽七川ダム(古座川町)-の3ダムすべてで緊急放流を実施した。このうち約8時間にわたり緊急放流が行われた椿山ダムは最大毎秒3958トンの水を放流し、計画最大放流量を1千トン以上上回る水が流れた。その結果、下流域では堤防決壊や護岸浸食などが発生。広い地域で床上浸水も起きた。

 3ダムはいずれも洪水調整と発電を目的とした多目的ダム。水力発電は水圧が高いほど発電効率が良いため、水力発電用の容量は、できるだけ満ちた状態になるよう調整されている。

 だが県は紀伊半島豪雨を教訓に、異常な大雨が予測される場合は水力発電用の容量分も事前放流できるよう関電と協定を締結。関電管理の水力発電専用の殿山ダム(田辺市)を加えた計4ダムで24年6月から事前放流の運用を始めた。

 この協定に基づく事前放流は今年11月10日までに計50回。昨年8月の台風20号では七川ダムで事前放流し、緊急放流の回避につながったという。

 一方で課題もある。事前放流すると、関電側は一時的に発電できなくなる。仮に大雨の予報が外れれば放流分の水をためるのに時間がかかる可能性もあり、事前放流には慎重な判断が必要だ。さらに、県河川課の担当者は「利水者が多いダムではそれだけ合意形成は難しい」と指摘する。

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