九州豪雨 コロナ禍と豪雨…熊本・人吉の温泉街に打撃

 熊本県南部に甚大な被害をもたらした豪雨は県有数の温泉街にも大きな打撃を与えた。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ客足が戻りつつあった矢先。「もはや立ちゆかない」「これからというときに…」。本格的な観光シーズンを前に再び見通しが立たない事態に見舞われ、関係者らの落胆は計り知れない。(小松大騎、入沢亮輔)

 ■「二重苦だ」

 江戸後期から続く老舗温泉旅館「人吉温泉 鍋屋本館」(同県人吉市)は新型コロナ感染防止のため約1カ月半にわたって自主休業し、6月に営業を再開したばかりだった。同旅館会長の富田正彦さん(62)は「コロナと災害の二重苦だ」と嘆く。

 富田さんと妻で女将(おかみ)の峰子さん(59)によると、県内に大雨特別警報が発令された後の4日午前7時ごろ、同館の目の前を流れる球(く)磨(ま)川が濁流でうねるように膨れ上がっていた。

 「今まで見たことがない川の水量に驚(きょう)愕(がく)した」。富田さんは急いで避難の準備を進めた。約20分後には、目の前の道路が冠水し、一気に濁流が流れ込んだ。

 午後になって水が引き、館内を確認すると、水が押し寄せた1階は、天井部分にまで泥が付着していた。大浴場は大量の土砂で埋め尽くされ、温泉を吸い上げる地上ポンプも水没し、使えなくなった。

 1階には、詩人の与謝野晶子が昭和7年に同館を訪れた際に書き残した手紙や詩が展示してあったが、それも濁流にのまれてしまった。

 人吉市は、球磨川沿いの温泉と川下りが名高い観光地。「熊本の南玄関」としても知られる。同館は文政12(1829)年に創業。海軍軍人の山本五十六や歌手の美空ひばりら多くの著名人が宿泊した。

 新型コロナ禍で売り上げは9割減少した。やっとの思いで休業期間を乗り切り、県などの観光支援もあり、常連客を中心に予約が入るようになっていたときに、豪雨が襲った。富田さんは「コロナで借金をしたのに災害でも、となれば経営を続けるのは難しいかもしれない」と話した。

 ■「再建目指す」

 同じ球磨川沿いにある昭和9年創業の「人吉旅館」も被災した。

 社長の堀尾謙次朗さん(63)は、小学生のころに経験した昭和40年の大規模な水害を覚えている。今回の豪雨で1階の天井まで達した水の跡を見て「水量はあのときの倍だ」と感じた。全21室のうち13室が浸水した。

 コロナ禍で同館も4月から約2カ月休業した。それに追い打ちをかける豪雨。それでも堀尾さんは「大変なことになったが、こうなっては仕方ない」と現実を静かに受け止める。

 今は土砂のかき出しなど館内の清掃を続ける日々。「再建にいくら金がかかるのか、いつごろ復旧できるのか全く見通せない」という。

 堀尾さんは、地元の温泉旅館が加盟する人吉温泉旅館組合の組合長も務める。「どこの旅館もまだコロナのダメージを抱えたままだ。でも人吉の温泉のファンがいる。そんな人たちのためにも再建していかないといけない」

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