娘と再会果たせぬまま…西橋欽一・恵美子さん夫婦 熊本・人吉

 熊本南部を襲った豪雨で犠牲になった熊本県人吉市下林町の西橋欽一さん(85)と、恵美子さん(82)夫婦はその日、娘と会う約束をしていた。「何とか無事でいてよ」。娘のせめてもの願いは、牙をむいた水にかき消された。

 「あんた、帰ってこんのね?」。3日夜、恵美子さんから次女の西村直美さん(51)=北九州市八幡西区=に、こんな電話がかかってきた。

 直美さんら県外で暮らす3姉妹は、交代で実家を訪れては、高齢の両親の様子を見守っていた。新型コロナウイルスの影響でなかなか会えない時期が続いており、それに伴って最近は電話でのやり取りが増えていた。この日もどこか寂しそうな声色で、直美さんは翌4日に帰省すると伝えて通話を切った。

 4日朝、直美さんがテレビで見たのは、濁流にのみこまれ、変わり果てた地元の街並み。両親の電話は何度かけてもつながらない。焦燥感に駆られ、不安に押しつぶされそうになった。

 知人ら思いつく先にもかけ続け、ようやくつながった実家の隣人から、2人が避難を断っていたと聞いた。「私が来るから、待っとったんかもしれんね」。今はこう考えるが、当時は祈るしかなかった。「お願いやけん、2階に上がっといてよ」

 水が引いた翌5日朝。1階の居間で重なり合うようにして倒れ、亡くなっている2人が発見された。これほどの水害に見舞われたとは思えないほどきれいな顔をしていた。「本当に今にも目を覚ましそうで…」。直美さんは言葉を詰まらせた。

 欽一さんはゴルフにテニスと多趣味で、愛称は「きんちゃん」。恵美子さんも沖縄の伝統芸能「エイサー」を習い、踊りを披露するなど活発な性格だった。社交的な2人の周りには常に仲間がいた。

 近年こそ体調を崩すこともあったが、2人で自転車に乗って近くの温泉に出かけるなど仲むつまじい姿は近所でも評判だったという。「子供が成人して近くに住んでいなかった分、周りの人たちに支えられ、幸せだったと思う」。涙を拭い、再開できなかった両親を思い、こう続けた。

 「こんなことになるなら無理をしてでも(3日に)帰っておけばよかった。ごめんね」(入沢亮輔、前原彩希)

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