暮らし守る山村の挑戦 災害予測AIも駆使

 九州を襲った豪雨で、福岡県の山間部にある東峰(とうほう)村では、住民の多くが迅速に避難したことが奏功し、人的被害を免れた。3年前の豪雨を始め、度重なる水害を経験してきた同村。地元大学と協力して住民の意識を変え、人工知能(AI)を使った災害予測システムの実験も始めた。過疎化が進む山村を守り続けるための挑戦が続く。

 東峰村は、面積約52平方キロメートルの9割近くを山林が占め、人口約2千人のうち高齢者が4割を超す。平成29年の九州北部豪雨で村民3人が自宅で死亡したことを受け、同村は九州大と連携し、早期避難を促す対策を強化。各地区の危険箇所が一目で分かる防災マップを住民と一緒に作成し、警戒レベルに応じ、地区や個人がとる行動を決める「タイムライン」を策定した。

 それが生きたのが今回の豪雨だった。6日正午、「避難準備・高齢者等避難開始」が発令されると、住民の高倉美紀恵さん(69)はすぐさま、近所で一人暮らしをする高齢女性を連れ、避難所に向かった。

 高倉さんは「自宅の裏山は少なくとも100年は崩れたことがないが、安全神話はもうなくなった」と話す。村によると、人口の15%が同日夕方までに避難所に身を寄せた。

 住民の防災意識が高まる一方で、避難の「空振り」が続くと避難疲れも懸念される。そこで、災害の発生を正確に予測できれば確実な避難行動に結び付くと考え、村と九大が6月から実証実験を始めたのが、「AI村長」とも呼ばれる災害予測システムだ。

 システムは、雨雲の動きや降雨量を踏まえて土砂崩れや洪水の起こりやすさを計算。高齢者が多いなどの各集落の特性、携帯電話の位置情報による住民の動きも勘案し、6時間先まで、村内各地点で住民が災害被害に遭うリスクをはじき出す。その上で、どの段階でどのエリアに村が避難指示を出すべきかを判断する。

 3年後の完成が目標で、今回の豪雨では実際に予測をさせながら、精度や使いやすさといった課題を洗い出した。

 渋谷博昭村長は「村には美しい風景、歴史、物語があり、今後も住民の暮らしを守り続けていきたい。そのためには安全安心が必要だ」としている。

■リスク高まる山間部

 福岡県東峰村のような「中山間地域」は、日本の国土の約7割を占める。こうした地域は人口減少や高齢化に直面してきたが、「数十年に一度」の豪雨が毎年のように襲うようになった今、災害リスクはさらに高まっており、全国の山村で「消滅」に拍車がかかる可能性もある。

 「生まれ育った村を出るつもりはない。でも村に住むのは自分の世代までかもしれないな」

 3年前の九州北部豪雨で妻を亡くした男性(75)は、村で暮らし続ける限界をにじませた。

 「日本の棚田百選」にも選ばれた、約400年の歴史がある風光明媚な棚田が広がる同村。住民の女性(69)は「村は誇りだが災害はどうしようもない。ゆくゆくは村を離れることも考える」と複雑な表情を浮かべる。一方、若手住民の和田将幸さん(46)は「災害をきっかけに、棚田や村を次世代につながなければと考えるようになった」と話す。

 災害が珍しくなく、高齢化率が40%を超える村を守るために、どこまで行政が力を入れるべきか。同村でAI開発などを主導する九州大の三谷泰浩教授(防災工学)は「効率を考えると安全な場所に集まって住む方がいいが、中山間地域の消滅は都市部にも悪影響を及ぼす」と指摘する。

 人が消えれば道路などのインフラも荒廃する。山が荒れ、田んぼがなくなれば水資源は減り、下流部の土砂災害や水害の被害が拡大するおそれもある。また、山村は「日本の原風景」。三谷教授は「都市部と山はつながって生きている」と考える。

 三谷教授は「山に住むには覚悟が必要で、住民が消滅を選ぶなら仕方ない」とした上で、「維持するならば、自治体は住民の災害リテラシーを高め、地域の不利を補ってくれるICT(情報通信技術)を活用すべきだ」と訴える。

(西山瑞穂)

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