鉄オタ向け介護サービス 路面電車で実証実験

◆非公開の構内へ

 やがて、電車は市電の事業所構内へ。除雪で忙しい冬季をのぞいて、安全を確保できる範囲で見学を受け付けているという。

 その直前、路上でカメラを構える“撮り鉄”の姿があった。「昔は車庫への軌道へ入るときバネを弾く音がして、それを楽しみにする“音鉄”もいた」(重山さん)

 色とりどりの球をシーツの上で弾ませる「ボールトランポリン」に挑戦。球は車両内のあちこちへ飛んでいく。連続25回を達成すると歓声が上がった。シーツ上の球を転がして箱に入れるゲームも、成功のたび拍手がわいた。介護プログラムというより、楽しいゲーム大会だ。

 最後は「市電の音を聞こう」。耳を澄ませると、それまで気に留めなかった音が、突如、ゴトンゴトンと響いてきた。低く長い音、リズミカルな音…。特別な体験に思えるから不思議だ。「資生館小学校前」の手前でゆっくり右折した。

 と、そのときだ。電車が3回、グッ、グッ、グッと大きなエンジン音を立て、ぐんぐん加速。スピードを維持したまま、直進し、この日の終点、すすきのへ到着した。

◆つり革でストレッチ

 「あの加速音は路面電車ならでは。運転手さんが、特別に、ぼくたちのためにアクセルを踏み込んでくれた」。下車後、うれしそうな重山さん。「音鉄が集まっていたら、エンジンの製造メーカーによる音の違いが話題になって、さらに盛り上がる」

 最後まで好きなことをしながら、自分らしく暮らしたい-。鉄道ファンを楽しませる介護サービスの実証実験は大成功に終わった。

 期末テストのあと駆けつけた“撮り鉄”の立命館慶祥高校2年(当時)、粕和(かず)篤(ま)さん(17)は「母が働く施設で、けん玉とか一対一の遊びをよく見かける。きょうはみんな一体となって良い機会だった」。

 運転手の市交通局員、加福良邦さん(60)も「おもしろかった」と満面の笑顔。「市電は揺れも少なくて高齢の乗客が多い。車内の介護サービスは、まったく夢ではない」

 スクールは、今後、つり革にぶらさがってストレッチ▽昼食は駅弁▽レクリエーションで路線図を書く-なども企画したいという。全国の鉄道で応用できるよう、電車型バッグに用具を収納するキットも作った。

 老いたら趣味をあきらめるのではなく、いつまでも趣味を楽しく続けたい。オタクティブシニア(おたくの高齢者)の充実した人生は、健康と介護予防に役立つだけでなく、きっと本人にも、周囲の人にも最高の幸せだ。

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