引きこもりを考える 当事者の声集める雑誌「ひきポス」 親が寄り添う「ヒントに」

 61万人に膨れあがっている中高年の引きこもり。川崎の無差別殺傷事件や元農林水産事務次官による長男刺殺事件の一端にも引きこもりは浮かび、問題の根深さを突きつけた。その解決の糸口はあるのか。当事者らの“訴え”を集め、雑誌「ひきポス」で発信を続けている編集長の石崎森人さん(36)も、その答えを探し続けている。(大渡美咲)

 「ひきポス」は昨年2月に創刊された。これまでに発行したのは5冊で計6千部に上るという。「ひきこもりと『働く』」「ひきこもりと恋愛・結婚」。各号では毎回特集が組まれる。

 《(幼少期から引きこもりを続け)電車の乗り方やファミレスでの会計の仕方が分からない》《給料の6割が出る「傷病手当金」でギリギリの生活をした》

 当事者の経験をそのまま伝える手法を取り、助言や安易な解決策といったものは提示しない。「当事者や経験者だからこその言葉には専門家の説得力とは違うメッセージ性があると思う」。石崎さんは力を込める。

 この確信の背景には自らの経験がある。

 石崎さんは家庭環境などが影響し、幼い頃から「自己肯定感」が低かったという。ちょっとした失敗にも「だから僕はダメなんだ」「自分は最低な人間だ」と考えてばかりだったという。

 その鬱屈が成長しても継続し、高校時代に鬱病を発症した。何とか大学を卒業して出版社に就職したが、体調を崩したことをきっかけに、24歳で引きこもりになった。

 「なぜこうなってしまったのか」。自室では否定的な考えばかりが頭に浮かび1日14時間眠って現実から離れる「寝逃げ」を繰り返した。

 「普通に働いて活躍したい」という思いは確かにあった。だが、抑鬱状態が続き、3年間もそうした生活から抜け出せなかった。

 処方薬の過剰摂取にも走り、救急搬送される事態にも陥った。ただ、その絶望の底で、高校時代に自殺した友人のことが頭をよぎった。「死んであの子の親と同じ思いを自分の親にさせるのか」。そう思うと、不思議と「いま生きている世界とのつながりを感じた」といい、引きこもりを脱しようと決意した。

 その回復過程で、不登校や引きこもりについての専門紙「不登校新聞」に自らの体験を書く機会を得た。

 全世代で100万人いるとされる引きこもりだが、そのきっかけや置かれた状況はみな違う。そんなことは身に染みて分かっていた。「何の参考にもならないのではないか」。体験を書くことにはためらいもあった。

 だが、読者からは、大きな反響があった。「恥ずかしくて隠したいと思っていた自分の負の経験も人の役に立つんだ」。ひきポスの創刊へとつながった。

 発見もあった。書くことは自分の気持ちを整理することにもつながり、「ひきポスは書き手となる当事者のメリットも大きい」と感じている。

 インターネットが普及する中、ひきポスは紙媒体にこだわっている。ネット世代ではない、高齢の親たちが手にとって読めるようにだ。

 親側は当然、引きこもりから脱してほしいと強く望む。だが、それが本人を追い詰めることも少なくない。川崎市の事件で岩崎隆一容疑者(51)=自殺=は同居の伯父夫婦から将来を不安視されたことに反発し、犯行の準備を始めたとされる。

 「同じ苦しみを持ってくれる人がいるということで救われ、気持ちが楽になる場合もある。そして、親が子供の気持ちを理解して寄り添うヒントに『ひきポス』がなればいい」。石崎さんは、こう願いを込めている。

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