京大も解けない「吉田寮」問題の難易度 舞台はついに司法の場へ

 「対話」を理念に掲げる京都大が、学生を相手に初めて起こした民事訴訟が、京都地裁で係争中だ。安全確保と老朽化対策を唱え、築100年を超える京大の学生寮「吉田寮」(京都市左京区)から寮生の退去を求める大学側に、「寮の自治を認めるべきだ」と拒む寮生側。両者の対立は対話では解決できず、舞台はついに司法の場へと移った。(桑村大)

■重い決断、寮生提訴

 「安全確保の観点からこれ以上先送りにできず、やむなく提訴に至った」

 学生担当理事として寮生とやり取りしてきた川添信介副学長は今年4月、記者会見で提訴に踏み切った理由を説明した。

 大正2(1913)年に建てられた吉田寮の「現棟」は老朽化が進み、震度6強の地震で倒壊する恐れがあるという。このため、京大は代替宿舎へ転居を求めるなどして寮生全員に平成30年9月末までの退去を通告。しかし、寮生側は「一方的だ」と反発し、一部の学生が入居を続けていた。

 大学の学生担当理事と寮自治会は大学の執行部が代わるごとに、寮の運営を大学側と寮自治会が合意で進めることを認めた確約書を交わしてきた。しかし、川添副学長は30年8月、「半ば強制されて自治会が用意した確約書に署名することもあった」として、確約書を交わすことを拒否、自治会との話し合いも打ち切った。

 背景には、確約書の交渉時に、寮生以外の人物が多数参加し、終了時間も明らかにしないなど、「『話し合い』とはかけ離れた異常なもの」「いわゆる団交」であると考えている大学側の寮自治会に対する不信感があったとみられる。

 寮自治会は、その後、現棟の維持管理を担うことを大学が認めれば、退去する意向を示したが、川添副学長は「立ち入りを認めろという条件で出ていくというのは自己矛盾的」と批判。平行線をたどる中、ついに京大は居住が確認された20人を相手取り、建物の明け渡しを求める訴訟の提起に踏み切った。

 「京大が学生を相手に訴訟を起こすのは初めて。重い決断だった」と川添副学長。対話を理念に掲げる京大が、話し合いによって解決できなかったことについて「寮生に対する教育が実らなかったのは残念だ」と厳しい表情で答えた。

■学内に広がる波紋

 第1回口頭弁論直前の7月1日に、京大の教員有志は訴訟の取り下げや対話による解決を求める要請書を山極寿一総長宛てに提出するなど、大学内では異議を唱える声が広がっている。

 要請書では「提訴は学問と教育の場にふさわしい対話の慣行を破壊する」と指摘。川添副学長による確約書の否定も「事態がこじれてしまった背景」としている。呼びかけ人の一人で、教育学研究科の駒込武教授は「確約書は公的な意味を持っている。大学執行部が一方的に否定すれば歴代の副学長、職員の努力を否定することになる」と説明。「いきなり無効だという見解はおかしい。大学当局のほうが大人げない」と批判した。

■訴訟始まっても対話

 7月4日、京都地裁の最も大きい法廷で開かれた第1回口頭弁論で寮生側は請求棄却を求めた上で、出廷した被告の一人が「この訴訟は寮生が求める対話を拒んだ上での強権の発動。何度も話し合いを求めてきたが、今の京大当局は対話すら拒んでいる」と訴えた。

 寮自治会代表で文学部4年生の松本拓海さん(24)は、弁論後の記者会見で「この問題が訴訟で決着することは、京大と寮自治会にとって最善ではない。京大には話し合いの道を閉ざさないでほしい」として、「諦めない」と、対話への望みをにじませた。

 大学と寮生との話し合いが最後に行われてから、まもなく1年。開く一方の両者の距離だが、対話による解決が実現される日は来るのだろうか。

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