縄文の酒豪たちは南北に追いやられた!? 目からウロコの「日本人と酒」 横田弘幸さん『ほろ酔いばなし 酒の日本文化史』

【BOOK】横田弘幸さん『ほろ酔いばなし 酒の日本文化史』(敬文舎・1600円+税)

 日本酒離れが叫ばれて久しい。近年は、国際会議で採用された山口県産「獺祭(だっさい)」がブームになるなど、回帰の兆しもある。日本酒は、どこに向かうのか。古代までさかのぼりながら酒の文化をひもといてみる。(文・菊池昭光 写真・高橋朋彦) 

 --「元読売日本交響楽団理事長」とは興味深い肩書ですが、どんな仕事ですか

 「(私は)音楽は分かりませんので、会員やファンを増やすことです。公演ごとに民間企業からの協賛金を頂くための“営業”もします。(チケットが)売れない演目もやらないと、楽団員の技術が伸びない。たまには売れないことを承知で開催することもあります。音楽との関わりはカラオケ。十八番はフランクシナトラの英語バージョンの『マイウエイ』」

 --お酒との関わりは

 「本格的には新聞社に入ってからですね。そのころは、まだ社員旅行が華やかなりし頃でした。カラオケはなく、車座で日本酒の一升瓶を囲んで飲む。宴会は日本酒だらけでした」

 --今回書かれた『ほろ酔いばなし 酒の日本文化史』を書くきっかけは

 「新聞社にいた現役時代、部外の方もいらっしゃる日本酒の愛好会に入ったんです。50歳になる前だったと思います。そこで日本酒のイメージががらりと変わりました。眼を見開かされました。酒がこんなに違うのはなぜなのか、自分なりに勉強してみようという気になったんです」

 --出典が『魏志倭人伝』『古事記』から『万葉集』『土佐日記』、加えてライバルの朝日新聞社説まで多種多様。全国各地まで足を伸ばして取材している

 「飲みながら考え、考えながら読み、蔵元にも仕事のふりして訪ねていきました。取材したネタを、3、4年前から千葉県市川市にある読売新聞の販売店が出しているミニコミ誌に毎月書くようになったんです。そして、昨秋に書籍化することを決めました」

 --日本の南北に酒豪が多く、真ん中に下戸(げこ)が多いなど「目から鱗」が満載です

 「酒が体に入ると、有害なアセドアルデヒトが生成されますが、この分解力で酒の強さが決まります。縄文時代は酒豪が多かったといわれます。ところが、二千数百年前に下戸の遺伝子を持った人々が渡来し、真ん中付近に住み着いた。酒豪たちは南北に追いやられたと考えられています。日本人の約4割は酒に弱いようです」

 --個人的に好きな銘柄は何ですか

 「好きな日本酒は『浦霞』(宮城県塩竃市)の純米とか吟醸。日本酒は少しだけ飲むと分かりますが、あとは何を飲んでも同じですね(笑)。珠玉は『まんさくの花』。最初に飲んだ吟醸酒で秋田の酒ですが、そのすっきりした味わいに感動しました」

 --日本酒の長期低落が言われますが、どう考えますか

 「最初の原因は『金魚酒』です。日中戦争の勃発による食糧不足で1934年、『3日間、金魚が生きる』というほど水で増量した酒が出回り、評判を落としました」

 「第2次世界大戦後、米が不足し、49年に誕生したのが『三倍増醸酒(三増酒)』です。サトウキビの絞りかすから作った醸造アルコールで、3倍に薄めたドロドロのものです。醸造アルコールは無味無臭で、味わいは薄れてしまう」

 --三増酒は、随分長い間放置されていた

 「2006年まで半世紀以上続いたんです。昭和世代が飲んだのは、この手の日本酒でした。本当は深酒のためだったのかもしれませんが、『日本酒は悪酔いする』『二日酔いがひどい』というレッテルが貼られたんです。そこから十分に立ち直っていない、根深い問題ですね」

 --日本酒の未来は

 「若い世代が飲まない代わりに女性が飲むようになった。ただたくさんは飲まない。値段が高すぎるのに輸出は伸びているが、日本全体からみればしれている。日本酒業界はわれわれのようなヘビーユーザーを重視して良い酒を造らないと。微生物を飼い慣らしながら、杜氏が手作りで神が宿る酒を造る。そんな風に造って頂きたいですね」

 ■内容 縄文人も酒を飲んでいた。醸造に麹を使うのは一般的だが、なんと「噛んで」も造っていた。清酒発祥の地は寺社。猿酒は本当にあったのか? 「令和」に酔う、鼻高々の大伴旅人。泉鏡花の熱燗は煮えたぎっていた! 日本の政治家、痛恨の酒。コメを削ればいいの? 日本酒の甘辛の指標。ただのウンチク本ではない、日本酒の文化が詰まった一冊。

 ■横田弘幸(よこた・ひろゆき) ジャーナリスト。1952年生まれ、67歳。東京都出身。中央大学卒。74年、読売新聞社入社。千葉支局を皮切りに東京編集局社会部、地方部、事業局などを経て2010年、読売日本交響楽団理事長。現在、日本記者クラブ会員、日本オペラ振興会評議員。著書に『やさしい環境問題のはなし』(法学書院)。俳人・若山牧水に心酔し、今夏は出生地の宮崎県日向市まで足を伸ばした。

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