都民の消防官 5氏に栄誉

 昼夜を問わず、東京都民の生命と安全な生活を守るため職務に励む東京消防庁の消防官約1万8千人の中から、特に功績のあった消防官に贈られる「第72回都民の消防官」(主催・産経新聞社、後援・フジサンケイグループ)の選考委員会が19日、千代田区大手町の東京消防庁で開かれ、栄えある受章者に5人の消防官が決まった。表彰式は10月23日に千代田区大手町の大手町サンケイプラザで開かれる。

■東京消防庁丸の内署消防司令補・坂本和久さん(54)

災害救助のスペシャリスト

 災害救助のスペシャリストとして、メタンガスが噴出する工事現場の事故や、台風で増水した河川での水難事故など、過酷な現場に駆けつけてきた。

 平成23年の東日本大震災では、東京消防庁の緊急消防援助隊の隊長として東京電力福島第1原発に派遣された。原子炉の冷却ができなくなった3号機で使用済み核燃料プールへの放水を指揮した。被曝(ひばく)も覚悟して命がけの任務を果たした。あれから8年半。「やり遂げなければならないミッションだった。被災地には一日も早く完全復興してほしい」と語る。

 経験を積むたび、責務の重さを再認識するという。12年に全島民が避難を余儀なくされた伊豆諸島・三宅島(三宅村)の大規模噴火では、硫化水素が発生した雄山(おやま)山頂に気象庁の観測機器を搬送。それがなければ、復旧に向けた被災地の状況把握ができなくなる重要な任務だった。

 「救うことができる人たちがいるなら、苦しいことも乗り越えられる。それが災害救助の原点だ」

■東京消防庁王子署消防司令補・増田利夫さん(59)

時間との闘い 傷病者救う

 今にも息絶えそうな傷病者を、確かな技術で何度も救ってきた。35年間、救急車に乗り込んで、現場へと急行する日々。「救急は時間との戦いだ」がモットーだ。傷病者の命を守れるかどうかは、自らの判断にかかっている。情報を迅速に収集し、状況に応じていち早く搬送先の病院を決定する。搬送中に必要な処置を継続して行うことも欠かせない。

 平成10年10月、練馬区の民家で胸の痛みを訴えた70代男性のところに急行した。男性は救急隊が到着したと同時に意識を失った。心肺停止状態の男性に対し、即座に心臓マッサージと人工呼吸を行うと、救急車の中で呼吸と脈拍が回復。病院に到着するころには意識も戻り、男性は無事社会復帰を果たした。

 これまでの出動件数は約2万4千件に上る。「ひとつひとつの作業が人命に関わる」。どれだけ経験を積んでも、その重圧を感じなかったことはない。来春に迫った定年退職を前に、「ひとつとして同じ現場はなかった」と振り返った。

■東京消防庁北多摩西部署消防司令補・坂本範子さん(59)

火災予防一筋 検証重ねる

 火災予防一筋の消防官人生を送ってきた。「同じ原因の火災を起こしてはいけない」。実際に起きた火災を丹念に検証し、次の火災を防ぐ努力を重ねる。

 平成17年7月、都内や埼玉県のディスカウントストアで火災が続発したため、日野市の系列店舗への立ち入り検査を実施した。避難するための誘導灯が山積みの商品で隠れていたことが分かり、店舗の担当者に火災発生時の危険性を丁寧に説明して、認識を改めさせた。

 自らの指導が業界全体の風向きを変えたこともある。20年1月に日野市で発生した住宅火災では、換気のためのレンジフードの天蓋部分に不燃材が使用されていなかったことが出火原因と判明。各メーカーに対して、不燃材を取り入れ、取扱説明書にも明記するよう求めた。

 近年は、火災予防のため建物施工段階での検査の重要度は増す一方だ。

 「必要なのは常に新しい知識を吸収すること」。これからも、自らの進歩を心がけていくつもりだ。

■東京消防庁麻布署消防士長・青山亮さん(60)

迅速な水源確保 延焼防ぐ

 一度延焼が始まれば、大規模な火災につながりかねない木造住宅の密集地。小型ポンプ車を駆って下町の狭い路地を抜け、いち早く現場で消火栓や川などの水源を確保する機関員として活躍してきた。

 延焼を防ぐカギは、「いかに早く火元に近づけるか」。平成4年1月には、墨田区の長屋住宅で発生した火災現場に出動。入り組んだ路地の奥に小型ポンプ車をつけ、絶え間ない放水で火勢を弱めた。

 機関員という立場だが、酸鼻(さんび)を極める事件現場に立ち合うこともある。8年9月には、葛飾区柴又で上智大4年の小林順子さん=当時(21)=が殺害され、自宅を放火される事件があった。23年が過ぎた今も、「あの事件のことは忘れられない」と唇をかむ。

 現在は麻布署に勤務し、現場と本部の意思疎通を図る通信担当を務める。下町と異なり、火が見えにくいダクト火災などビル街ならではの危険を伴う。「どんな状況でも自分の役割を着実に果たす」。変わらぬ姿勢で今日も現場に立つ。

■東京消防庁奥多摩署消防司令補・杉山博士さん(59)

過酷な山岳救助に全身全霊

 過酷な高地を現場とする山岳救助の任務に、17年以上にわたって身を捧げてきた。「温厚かつ献身的、何事においても努力を惜しまない」と上司、部下から信頼を寄せられている。

 平成25年9月、奥多摩町大丹波の山中。残暑の強烈な日差しが照りつけ、ハンターの男性が体調を崩した。現場は険しく足下が不安定な作業道。滑落の危険もあるなか、大柄な男性を担架に乗せ、自身も汗みずくになって搬送を続けた。

 58人が死亡、5人が行方不明となった26年の御嶽山(おんたけさん)(長野、岐阜両県)噴火では、第24次緊急消防援助隊の一員として災害派遣された。

 生存者の捜索現場は噴石が上がり、火山灰がセメントのように固まっていた。「岩場がいつ崩れるか分からない、切迫した状態だった」と振り返る。

 28年には東京消防庁の「山岳救助スペシャリスト」にも認定された生粋の“山男”。

 「先輩の背中を追いかけてきただけ」と笑ってみせた。

 ■「都民の消防官」協賛団体 三菱地所、東京ガス、サンケイビル、富国生命保険、東京都消防懇話会、東京連合防火協会、東京防災救急協会

 ■協力団体 三越伊勢丹ホールディングス

 ■選考委員 委員長代行=増渕多俊・三菱地所ビル運営事業部長▽委員=柴田陽一・東京ガス広報部長、中野秀樹・サンケイビル東京ビル営業一部長、宮下義之・富国生命保険業務部基盤管理グループ課長(部長代理)、荻原光司・東京都消防懇話会事務局長、田中勝久・東京連合防火協会専務理事、湯浅達也・東京防災救急協会事務局長、伊藤富博・産経新聞社事業本部長、中村将・産経新聞社社会部長

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