静電気を電池代わりに 靴やタイヤで摩擦発電

 パチパチパチ-。寒い時期になると私たちを悩ます静電気。そんな身近な“厄介者”を、センサー類の電源などとして役立てる試みを関西大の谷弘詞教授(摩擦工学)らのチームが進めている。自動車タイヤの回転に伴う摩擦で静電気を発生させ、センサーやワイヤレス信号を動かす電力を得ることに成功。自動運転の安全監視システムへの活用など幅広い応用が期待されている。(有年由貴子)

 6センチ四方で厚み1センチ、重さ約40グラムの柔らかなゴムで覆われた摩擦発電機。軽く指で押すと、電圧測定器の針が大きく振れた。衝撃が加わると、発電機内部に組み込んだ2枚の帯電フィルム同士がこすれ、静電気が発生するという仕組みだ。

 これをタイヤの内側に取り付ける。タイヤは回転するとき地面に接して変形し、発電機を振動させる。つまり、タイヤが回るだけで電力を得られる夢のような発電機ができあがる-。

 住友ゴム工業(神戸市)との共同開発。摩擦研究を専門とする谷教授が平成29年、同社にアイデアを持ち込んで研究がスタートした。温度と湿度の変化や衝撃といったタイヤ内の過酷な状況に耐えられるよう改良を重ね、近距離無線通信「ブルートゥース(Bluetooth)」で信号を送れる程度の電力を蓄えられるまでになった。

 現在のワイヤレス通信やセンサーには電池が使われており、電池のスペース確保や消耗が課題となっている。摩擦発電の技術を使えば、電池不要で電力を供給することができる。

 当面の用途は、タイヤの空気圧や摩耗状態をモニタリングするセンサーの電源として活用することを想定している。将来的には、人間の手に頼らず車が「自動点検」するための技術への応用が見込まれるという。

 谷教授は「走行距離10万キロぐらいまでの耐久性を目指して、今後も改良を重ねたい。少なくともタイヤの寿命までは長持ちさせたい」と話す。

 さらに、車以外にも摩擦や振動が起こる日常生活のあらゆる場面に、発電機が使われる可能性がある。

 たとえば、子供の靴のインソールに取り付けて、位置情報を知らせるサービスにも活用できる。飲食店の机に設置すれば、空席の状況などを振動を通して自動的に把握することも可能。高齢者の介護ベッドに取り付ければ安否確認の手助けになり、玄関マットに組み込めば防犯グッズとして使えるかもしれない。

 谷教授は力を込める。

 「これまで悪者だった静電気を、味方として活用していく。商業用に安く提供できる発電機の開発を目指して、研究を続けたい」

 ■IoT社会到来で需要

 日常生活の至るところに存在するセンサーは、光や音、温度・湿度などを感知してデジタルデータに変換し、瞬時に送信することが可能だ。膨大なデータが収集・分析される「モノのインターネット(IoT)社会」の到来で、爆発的に普及している。

 総務省の情報通信白書(令和元年版)によると、世界のIoT機器数は2018年時点で307億1千万台で、2021年には約1・5倍に伸びる予測だ。特に、自動車や医療、工場や物流といった産業用途で高成長が見込まれている。

 谷教授は「次世代通信規格(5G)などの普及に伴い、これからもセンサーの需要は高まっていくだろう」と分析する。

 このため、電池に代わる消耗しない発電システムの開発が急務だ。センサーは少ない電力で駆動できることから、電源として静電気に注目が集まり、世界でも発電システムの研究が進められているという。

 だが、まだ実用化には至っておらず、谷教授は「日本が先行できるよう、摩擦発電機の開発を急がないといけない」と強調する。

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 【プロフィル】有年由貴子(うね・ゆきこ) 平成21年入社。大阪社会部で遊軍(大学・医科学)を担当。これまでに広島、神戸で勤務してきた。大学時代は細胞生物学の実験に明け暮れた“リケジョ”だが、数学・物理系分野は苦手。

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