命を救う再生医療の試金石 iPS心臓病治療、鍵握る安全性

 iPS細胞による再生医療の研究は目の難病などで実施されてきたが、命に直結する病気ではなかった。大阪大チームが27日に発表した重い心不全患者への移植手術は、iPS細胞の利用の本命である「命を救う再生医療」を実現できるかどうかの試金石となる。

 心臓病は日本人の死因のうち、がんに次いで多く、年間20万人が死亡する。中でも高齢者を中心に増えているのが心不全だ。血液を全身に送り出す心臓の筋肉(心筋)の機能が衰えて息切れやむくみが起こり、悪化すると死に至る。

 国内の患者数は100万人を超えているが、特効薬はない。心臓移植や補助人工心臓の装着が重篤時の治療法だが、臓器提供者の不足や患者の肉体的負担が大きいことなど課題が多い。

 長年にわたって心不全の治療法を研究してきた大阪大の澤芳樹教授らのチームは、患者自身の太ももから筋肉の細胞を採取してシートを作り、心臓に移植する治療法を開発している。だが心筋とは異なる種類の筋肉のため、重症患者ではうまく機能しなかった。

 そこで今回はiPS細胞から心筋そのものを作って移植し、治療する再生医療を目指す。薬が効きにくく、放置すれば補助人工心臓や心臓移植が必要になる重症患者が対象だ。

 治療が実現すれば、多くの患者の命を救える可能性がある。ただ、これまでの研究よりも重みが増すため、移植の安全性を十分に見極める必要がある。特に重要なのが、がん化のリスクだ。

 iPS細胞は、移植に使った細胞の一部ががん化する懸念があり、使う細胞が多いほどリスクが高まる。今回移植した細胞は約1億個で、平成26年に理化学研究所が世界で初めて実施した目の網膜の病気の患者に移植した数万個と比べ、桁違いに多い。

 チームは心不全のブタを使った実験で、がん化が起きず心臓機能も改善することを確認したが、人では何が起きるか分からない。再生医療の新たな時代の扉を開けるかどうかは、術後の安全性の確認にかかっている。(伊藤壽一郎)

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