「ハッカー攻撃」連日16億件以上…サイバー空間で何が起きているのか 『防衛隊』初代隊長を直撃 中国の軍、情報機関に警戒

 日本政府は、サイバー攻撃に関する情報を官民で共有する新組織「サイバーセキュリティ協議会」を発足させた。5月1日の皇太子さまの新天皇ご即位や、6月のG20(20カ国・地域)大阪首脳会議、来年の東京五輪・パラリンピックを見据えて、サイバー攻撃への対処は喫緊の課題だ。政府は、新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」にも、「防衛・反撃能力」強化を盛り込んだ。いま、サイバー空間で何が起きているのか。自衛隊「サイバー防衛隊」の初代隊長で、現在、情報セキュリティー会社で監視業務を統括する佐藤雅俊氏(58)を直撃した。

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 同協議会は、改正サイバーセキュリティ基本法が1日に施行されたことを受けて発足した。国の行政機関に加え、地方公共団体、重要インフラ事業者、サイバーセキュリティー事業者など、官民で攻撃への対処策を話し合う新たな枠組みだ。

 サイバー攻撃の脅威は、防衛・軍事分野でも深刻だ。

 防衛省は2014年、サイバー防衛隊(約90人)を発足させた。前出の佐藤氏は同年3月の発足式で、「サイバー攻撃は、近い未来の脅威ではない。現実の脅威だ。陸海空の力を結集していきたい」と決意を語った。

 同隊は防衛相直轄の組織で、24時間体制で、防衛省・自衛隊全体の通信ネットワークを監視し、日本の安全への脅威となるウイルス情報の収集や分析などを手がけている。米国や中国などによる「軍事・ハイテク技術」をめぐる覇権争いが激しくなるなか、極めて重要な組織といえる。

 佐藤氏は17年1月に退官後、情報セキュリティー会社「ラック」(東京)のナショナルセキュリティ研究所長を務めている。

 「サイバー攻撃を仕掛ける敵は、強固な守りの本丸(=防衛省)よりは、周囲の防衛関連企業などを攻めてくる。防御する側は『相手がいずれ本丸を狙うため出城を狙っているのか、どうか』を見極めることが大切だ。全体像を知るには、民間の立場から物事を見るのも必要だ」

 ラックは、900社を上回る顧客企業の安全を監視する。

 「実は、海外から毎日、計16億件ものハッカー攻撃をラック社では観測している。中央省庁では実在の職員名を詐称する新手の手口も確認した。ここ数年で、偽メールの日本語の精度も向上し、真偽が判別しにくくなっている。10年前はウイルスのバラマキ型だったが、最近はピンポイントで特定の人を狙い、情報を抜き取ったり、メールのタイトルに『至急』などと書き、メールを読みたくなるような心理を突いた、オレオレ詐欺に似た攻撃が多いようだ」

 特に、共産党一党支配の中国からの攻撃に神経をとがらせている。

 中国人民解放軍は03年から、敵対国を「世論戦」「心理戦」「法律戦」を駆使した「三戦」で攻撃する戦略を取ってきた。

 その上、習近平国家主席は16年にサイバーセキュリティ法を制定するなど、国内での情報監視を強めている。

 佐藤氏は「同法が、ネットワークのユーザーも対象にしたことが重要だ。中国国内を統制する法律だが、ネットは世界中につながっており、結果的に、さまざまな情報が中国当局の管理下に置かれる。習氏は中国式の管理手法を世界に広めようとしている」と警戒感を隠さない。

 米司法省は昨年12月20日、米海軍関係者10万人の個人情報などを大量に盗み出していたとして、中国人ハッカー2人を起訴した。

 2人は中国の情報機関「国家安全省」傘下で活動するハッカー集団「AP10」のメンバーだった。日本でも同集団の政府機関などへの攻撃が確認されている。

 佐藤氏は続ける。

 「サイバー攻撃は常態化しており、100%食い止めることはできない。私の見立てでは、すでに中国側は日本の官公庁などあらゆる組織の人物名などをリスト化し、『この人にはこんなメールを流せば興味を持ち、食いつく』くらいは把握されている」

 それでも相手の攻撃の兆候をいち早く発見し、先手を打つことが重要だという。

 自衛権が発動される前でも、不審な挙動があれば、いち早く発信元を割り出し、「お前、何をやっているんだ」と、ハッカーのパソコンの画面上で警告文を突きつける程度のことはできるようにすべきだと主張する。

 サイバー戦は、ネット上だけの問題ではない。相手が混乱を誘うために意図的に流すフェイクニュースを、正しいニュースとどう判別するかなど、世論戦の一面もあるという。

 佐藤氏は「国家として、相手の攻撃の背景も分析し、総合的かつ戦略的な見方・対処ができるハイレベルな人材を育成することが、喫緊の課題だ。そうした力を身に付けるまでに、3年程度はかかる。『人材が19万人不足する』とのデータもある。それでも一歩一歩やるだけ。すべては国益を守るためだ。必ず、サイバー戦には勝つ」と強調した。

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