【新政権の課題】外交左右する国内基盤 「熱狂的保守層」の支持は未知数

 冷静沈着で感情を表に出さない。言葉の一つ一つに重みを持たせ、ペラペラとは語らない。そんな菅義偉(すが・よしひで)首相が色をなす場面があった。日本記者クラブ主催の自民党総裁選候補者による12日の討論会でのことだ。

 「すべて事前に相談を受けた中で電話会談に出席しているから、そこはぜひご理解をいただきたい」

 菅氏は安倍晋三前首相とトランプ米大統領の電話会談37回のうち1回を除き全て同席した。討論会で質問者が「同席することと交渉することは違う」と指摘すると、菅氏は「同席していたから何もやっていないという発言だが…」と語気を強めた。

 規制改革や地方活性化で辣腕(らつわん)を振るった菅氏だが、外交交渉の経験は乏しい。流暢(りゅうちょう)に英語を操るわけでもない。安倍氏は外交・安全保障に思い入れが強く、官房長官の菅氏は黒子に回ってきた。首相になれば米中対立が深まる国際環境で外交の最前線に立たなければならない。

 外交が菅氏の「泣きどころ」になるのではないか。そうした声は本人の耳にも届いている。菅氏は首相就任前に「外交を全然とか、不得意とかいろいろ言われていますけど…」と気にする様子を見せた。

 英語が話せて外交経験が豊富でも首脳外交に役立つとはかぎらない。ベテラン外交官は「外国首脳は相手の国内基盤がどれぐらい強いかどうかで態度を変える。『弱いリーダー』の話には耳を貸さない」と語る。

 安倍氏は第2次政権で「自由で開かれたインド太平洋構想」を掲げ、自由や民主主義など価値観を共有する諸国をリードした。第1次安倍内閣でも麻生太郎外相(当時)が似たような「自由と繁栄の弧」を掲げたが、海外ではさほど注目されなかった。

 第2次安倍政権が外交で成功したのは国政選挙で連勝し、政権基盤を固めていたからこそだ。ドイツのメルケル首相は日本を素通りして中国を訪問することもしばしばだったが、平成27年3月に来日した際に安倍氏がその理由を問うと「日本の首相は毎年代わるから会っても仕方がないと思った」と答えたという。

 菅氏の「外交手腕」も国内の権力基盤にかかっている。来秋までに実施される次期衆院選は、菅氏が新内閣の支持率次第で早期解散に踏み切るのではないかとの臆測が広がっている。この選挙と来年9月末の自民党総裁の任期満了に伴う総裁選は菅外交をも左右する。

 安倍氏にあって、菅首相にないものもある。その最たるものが、熱狂的ともいえる保守層の支持だ。

 安倍氏は若手議員時代から北朝鮮による日本人拉致問題や歴史認識、領土問題をめぐり、党内で最も強硬な保守派の一人とみなされてきた。この事実が平成24年の自民党総裁選で復活を果たす原動力ともなった。とはいえ、第2次政権の外交政策を振り返れば意外なほど柔軟な判断が目立つ。

 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に条件付きで協力し、北方領土2島先行返還を視野に日露経済協力を進めた。日本政府が10億円を拠出する日韓慰安婦合意に達し、北朝鮮とのストックホルム合意では拉致被害者の調査を約束する見返りに制裁を緩和した。

 これらの政策は安倍政権でなければ保守派の反発を招いた可能性が高い。外務省幹部は安倍政権について「安倍氏が強硬派とみなされたことで柔軟に判断しやすい国内環境になった」と語る。

 菅氏は外交でも「安倍路線の継承」を掲げる。だが、菅首相が安倍氏と同じような柔軟さを発揮したときに保守派が「菅さんが判断するなら仕方がない」と思われなければ、菅氏の権力基盤を揺るがす危うさを秘めている。(杉本康士)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ