稀勢の里、貴乃花の鬼気迫る優勝を脳裏に 千秋楽「しっかりやるだけ」

 攻めることはおろか、抵抗すらできない。稀勢の里は前日に負った左肩付近のけがを押して強行出場したが、わずか2秒5で完敗。右から張って立ったが、やはり生命線の左をまったく使えない。鶴竜にもろ差しで一気に寄り切られた。

 弱みをさらけ出すことを嫌って、これまで最小限にとどめてきたテーピングが横綱土俵入り前に左肩から上腕にかけて施された。普段は大きく鳴り響く柏手(かしわで)の音も弱い。万全な状態とほど遠いのは明らかだった。

 救急車で搬送された前日夜から心配する友人やトレーナー、後援者らに「出る」と明言した。休んでも番付は下がらない。けがを悪化させれば長期休場につながる恐れもある。それでも迷わず土俵へ立った。最高位の自覚と責任が休場の選択肢を消したのだろう。

 稀勢の里は以前に「子供の頃、貴乃花関の相撲を見てこの世界に入った。相撲の大会に出るときは物まねして右四つで取っていたんだ」と話していた。憧れていたのはその生きざまだ。

 中学3年のとき、テレビ越しに見た名勝負が今でも胸に強く刻まれる。右膝負傷を抱えたまま強行出場した貴乃花が夏場所千秋楽で武蔵丸を倒して優勝した一番。勝利の直後に浮かべた貴乃花の鬼気迫る表情のフィギュアが稀勢の里の自宅にずっと飾られている。

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