監督はパン職人…“焼き上がる”のを待って変わった主将 

 第101回全国高校野球選手権は13日、2回戦で37年ぶり出場の立命館宇治(京都)が強豪の星稜(石川)と対戦し、3-6で敗れた。実家が営むパン屋でパン職人との二足のわらじを履く立命館宇治の里井祥吾監督は「生徒の指導はパン作りと同じで待つことが大事。押しつけるのではなく、自ら考えさせる」と生徒の自主性を重んじてきた。そんな指導の下、控えの吉村仁(じん)主将の成長があった。

 里井監督の朝は早い。平日は午前4時ごろに起床し、京都市内のパン屋で昼過ぎまでパンを焼く。仕事が終われば京都府宇治市のグラウンドに通う多忙な日々を過ごす。

 鳥羽(京都)時代に内野手として春夏3度、甲子園に出場した。立命大硬式野球部3年生で全日本選手権に出場したが、念願のプロ入りはかなわなかった。「家業を継ぐか」。そう考えていた折に声が掛かり、平成18年から立命館宇治のコーチとなり、4年前に監督に就任した。

 「パン作りは焼いたり、発酵させたりと時間がかかる作業。状況を見ながら待つのは高校野球の指導と共通する」と里井監督。今年の新チームで気にかけていたのが吉村主将だった。部員間の話し合いで主将に選ばれたが、昨秋の公式戦で結果が出せず、レギュラーを外れた。小学2年で野球を始め、中学の成績もオール5に近かった吉村は「挫折でした」。里井監督は「試合に出られないあいつが、どうやってチームを引っ張るのか心配だった」と振り返る。

 今年の春季大会。ベンチの真ん中で前のめりになり、誰よりも声を出す吉村主将の姿があった。「葛藤はあったけど、これがチームのためになる」。自身が出した答えだった。

 今夏の京都大会前、主軸を打つ同級生の上田龍一郎選手に自身の銀色のバットを託した。福知山成美、準決勝で龍谷大平安と相次いで強豪を破り、迎えた京都国際との決勝。吉村主将のバットを握った上田選手が2-2の九回にサヨナラ打を放ち、準優勝で計7度、涙を飲んだチームが悲願の甲子園出場を決めた。1回戦の秋田中央戦も七回に上田選手の内野ゴロが敵失を誘い、決勝点の1点を奪い勝利した。

 この日の星稜戦。3-6の九回、里井監督が「思い切りいってこい」と吉村主将を代打に送り出した。四球で出塁したが、逆転はならなかった。吉村主将は「試合に出られない僕についてきてくれたみんなに感謝したい」と涙ぐんだ。里井監督は「チームを思いやれるいい主将だった。お疲れさん、と言いたい」。焼き上がるまでのパンのように、部員たちの成長をじっくり待ち、チームはこの夏、確かな成長を遂げた。その中心には吉村主将がいた。(岡野祐己)

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