米中間選挙後と大黒柱「メルケル後」の欧州 三井美奈

 あらゆる「大国」には顔がいる。過去13年、欧州連合(EU)の顔として米国、中国、ロシアに対抗したのは、ドイツのメルケル首相だった。

 6日投票の米中間選挙。結果次第で、トランプ大統領の迷走はさらに広がるだろう。そんな不安の中、欧州の大黒柱が消えていく。温暖化対策の「パリ協定」、自由貿易、人権重視と人道主義など、メルケル氏は、米欧民主主義の価値観を守る孤塁だった。

 熱い言葉で有権者に訴え、豪腕でEUを率いたわけではない。「欧州の指導者」を支えたのは、理想を守る強い責任感だ。それは経験に裏打ちされていた。

 旧ソ連圏の東ドイツで青春を過ごした。2009年の米訪問時、議会演説で、「壁と鉄条網と銃口に阻まれ、密輸された映画や本で米国を想像した。だれでも努力次第で成功できるアメリカン・ドリームに興奮した」と語った。圧政の恐怖、自由と民主化の恩恵を身を持って知る世代だ。

 今月は、第一次世界大戦終結から100年にあたる。フランスのドイツ国境にある古都ストラスブールでは4日、独仏和解の記念式典が行われた。そこにメルケル首相の姿はなかった。マクロン仏大統領は、失うものの大きさを実感しただろう。トゥスクEU大統領、ユンケル欧州委員長は肩書こそEU首脳だが、一般市民は何の仕事をしているかさえ知らない。

 しかも、EUは危機にある。米欧同盟は壊れ、加盟国の結束もガタ落ち。英国は離脱を決め、イタリアはポピュリズム(大衆迎合主義)政権で混乱が続く。フランスは経済改革が遅れ、ドイツとの格差が開くばかり。東欧のポーランドやハンガリーは民主主義さえ怪しくなり、欧州委に「三権分立を守れ」と提訴される始末だ。

 メルケル首相のアキレス腱(けん)になった難民・移民対策は、EU最大の問題になった。ポピュリストが各国で台頭し、トランプ政権のように、露骨な人種対立や感情論に走る危険もある。

 一方、米国抜きで外交を模索する動きも出てきた。メルケル首相、マクロン大統領は今夏、相次いで「欧州の安全保障は、もう米国に頼れない」という認識を示した。その結果が、ロシアとの対話再開。10月にはシリア内戦の終結を視野に独仏露、トルコの4首脳がイスタンブールで会合を開催した。中東で新枠組みを作る狙いだ。

 11日、パリでの大戦終結100年記念式典には、欧州首脳とともにトランプ大統領やプーチン露大統領が参列する。この大戦で、米国はモンロー主義の孤立を脱して欧州に参戦し、米欧同盟が歩き出した。式典は、様変わりした世界をありのままに映し出すだろう。

 今のところ、欧州政界で「ポスト・メルケル」を担える人材は見当たらない。一方、各国では30~40代のリーダーたちが台頭している。マクロン大統領(40)、スペインのサンチェス首相(46)、オーストリアのクルツ首相(32)-平和が当たり前の時代、自由をおう歌して育った世代だ。

 「民主主義の価値観」のたいまつを受け継ぎ、ポピュリズムに対抗できる指導者は出現するのか。さもなければEUは、米中露のし烈な覇権争いの狭間(はざま)で漂流するしかない。(パリ支局長)

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