「黒人解放」の宿願汚した元英雄、死去のムガベ前大統領

 6日に死去したジンバブエのムガベ前大統領(95)は、白人支配に抵抗する黒人解放運動の闘士として脚光を浴び、長く投獄された後に国家指導者となるなど、南アフリカの故ネルソン・マンデラ元大統領と共通する面がある。しかし、両者の評価は天と地ほどに異なる。「ムガベ氏の時代」は、黒人の権利獲得という宿願が強権統治と腐敗で汚された期間として記憶されることになる。

 ムガベ氏は敵対勢力を容赦なく弾圧した。1980年のジンバブエ独立から数年後には北朝鮮に訓練を受けた軍事部隊を使い、推定2万人もの反体制派の大量殺害を行ったとされる。

 2000年からは白人の農園を強制収容し、黒人に再配分する政策を強行。外貨収入が激減し、1000%を超えるインフレを招いて国民を窮乏に追い込んだ。晩年の失業率は9割以上に達し、その陰で自身は私腹を肥やしていたとも指摘される。

 報道統制や野党攻撃も徹底していた。08年の大統領選の際には「負けたら政治から身を引く」と話していたが、決選投票に持ち込まれると野党に厳しい弾圧を行い、敵対する有力候補は「支持者を守るためだ」として出馬を撤回した。

 国民の間ではいまもムガベ氏を英雄視する者がいるほか、教育に力を入れ、国民の識字率は85%を超えるという実績を残した。ただ、深く浸透した強権統治と腐敗の拡大は、こうした実績をかき消して余りある。17年に事実上のクーデターでムガベ氏が辞任を表明した直後、首都ハラレを埋めた歓喜の声がそれを如実に物語っている。

 「100歳まで大統領を務める」「私を退位させうるのは神だけだ」。そう豪語してきたムガベ氏は最近、もはや自立歩行ができないほど弱っていたという。胸を去来していたのは英雄と称された過去の栄光か、それとも国民に対する謝罪の気持ちか。いまとなっては推し量るしか術はない。(カイロ 佐藤貴生)

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